水晶の森
まどか達は牢獄を抜け出し、地上へと出る。
周囲は霞が掛かり、その中に巨大な建造物と思われる影があった。
「あれは……お城っすか?」
ハンスの言う通り、そこにあったのは、朽ちてなお荘厳な城であった。
「これは……戦の跡?いや、魔獣の爪跡か?」
周りに漂う霞は、僅かだがマナの反応がある。まどか達が本拠地としている、名も無き島に漂う、蜃の吐き出す蜃気に近いガスのようだ。
侵入した者の方向感覚を狂わす働きがある。
「城から魔物の気配がある。戦闘の準備だけはしておこうか」
「お嬢様、城だけではございません。どうやら囲まれたようでございます」
霧のマナに紛れて、まどかは気付かなかったが、ジョーカーの魔眼は捉えたらしい。おびただしい数の魔物が、包囲網をジリジリと狭めて来ている。
「メグミ、先制攻撃だ」
「わかったわ」
メグミはエルフィンボウを構えると、矢を番え空を仰ぐ。イメージは流星群。マナを込め光を帯びた矢を放つ!
「スターダストレイン!」
矢は天空にて千本の矢となり、篠突く雨の如く降り注ぐ。しかし、
「ガキン、キン、カキキキキン!」
金属を打ち鳴らすような、甲高い音が響く!幾らかの魔物の悲鳴は聞こえるものの、思った程の気配の消失は無い。
「霞でよく見えないなぁ……吹き飛ばすか。風陣!サイクロン!」
まどかを中心に逆巻く風。その輪は次第に範囲を拡大し、半径五十メートルの霞を吹き飛ばす。
「なに、これ……」
霞の中から現れたのは、透き通る木々。枝の一本、葉の一枚に至るまで、水晶の輝きを放っていた。
それは長年マナの霞に晒され、魔水晶と化した森であった。
魔石程では無いが、魔晶石よりも純度が高く、圧縮されたマナの結晶である。
「あれに弾かれたのか」
「まどか様、どうするっすか?」
「お嬢様、群れの数が増え続けております」
まどかは周辺にあるモノを見て、瞬時に思考をまとめる。
「城の中も調べたいけど、それどころじゃないね。まずは少しでも速く、この森を抜ける!話はそれからだ」
木々の根元に、人型の水晶があったのだ。おそらくこの森で迷い、力尽きた旅人だろう。つまりは水晶化するのは、木々だけでは無いと言うことだ。常から体内にマナを宿す、まどか達亜人種やジョーカー達魔族ならば問題ないが、ハンスには耐えられないだろう。あまり霞を吸い込むべきではない。
「ハンス!マナ吸収用のネットで、自分の鼻と口を覆うんだ」
これで多少は体内での蓄積を遅らせることは出来るだろう。後は速やかに、この迷いの森を脱出しなければ。
「たっちゃん!スピードなら任せるにぃ!牛のおじさんに教わった新しいスキルを使うにぃ!」
そう言えば、一本角討伐の帰りに、保護した牛の獣人と仲良くなり、色々教わっていた……ここしばらく、そのスキルの制御を頑張っていたようだが、ようやく身についたらしい。
「いくにぃ!獣身化!」
らっくの身体をマナが包む!この環境下でらっくは、周囲のマナも吸収し、四つん這いになって唸っている。体長は見る見る大きくなり、三メートル程の獣姿になった。
それは子猫と言うには余りにも荒々しく、獰猛な獣。霞を取り込みすぎた所以なのだろうか、内なる衝動を らっくは必死に抑えていた。
「早くっ、背中にっ!」
らっくは皆を乗せると、咆哮を放ち一気に駆け出した。




