大義名分
王宮。その庭園を埋め尽くす兵士達。
テラスの玉座に鎮座するは、ルシウス王国国王、アーノルド・ルシウス。側に控えるアシム、両脇を 白に金の縁取りのフルプレートメイルとヘルムに身を包む近衛騎士団が固めている。
兵士達の先頭で跪いているのは、王国最強の重騎士団団長ファルカン。二メートルを超える身長に、鎧など不要では無いかと思わせる鋼のような肉体、跪いていてなお、他の兵士が子供に見える体躯である。
ファルカンを筆頭に、整然と居並ぶ兵士達は圧巻の一言で、小動もせず王の言葉を静かに待っていた。
アシムは一歩前に出ると、王に向かい恭しく一礼する。そのままテラス最前に設えた演台へと歩を進め、兵士達を見回した。
「勇敢なるルシウス王国兵の諸君。既に聞き及ぶ者も居るかと思うが、我が国の重鎮、ロマーノ殿の屋敷が、冒険者に成りすまして侵入した帝国の者共に強襲され、ロマーノ殿は討死なされた。
兼ねてより帝国は、周辺諸国に対し、武力にてその国土を簒奪せし蛮国である。その卑劣なる魔の手が今、我が国へと向いたのだ。
最早是非も無い!怨敵帝国を滅ぼし、王国に平和を!世界に安寧秩序を取り戻す!正義は我にあり!」
「「「うぉぉぉぉぉーーっっ!」」」
アシムの演説に、地鳴りのような雄叫びを上げる兵士達。それを見つめ、うむ。と頷き、王が立ち上がる。
「アーノルド・ルシウスの名において命ずる。直ちに帝国に巣食う害虫共を駆逐せよ!」
まどか達のコバルト奪還から三日後、この日、王の勅命が下された。
まどか達が投獄された日、アシムは国王の命で貴族院を招集、帝国討伐を訴えた。国家転覆罪などと言ったが、罪状はなんでも良かった。要は帝国の者が王国の重鎮を襲い、殺害されたという事実が大事なのだ。
帝国は周辺諸国を纏め上げ、現皇帝により安定しつつあるのだ。それを今更、諸国の解放などと言った所で、軍部が二の足を踏むのは目に見えていた。そこで今回の一件を 帝国の侵略行為であると訴え、大義名分を得ることに成功した。
噂が本当であるなら、まどか達と事を構えれば、こちらの被害も少なくないと思われた。ならば帝国蹂躙の前に、戦力を削るのは愚策であると考え、知略にてまどか達を投獄したのだ。後は帝国を滅ぼせばいい。まどか達が気付いた時には、既に事は終わっているだろう。
まどか達が王国の手に落ちたと知れば、帝国兵の戦意も挫くことが出来るだろう。そういう計算のもと、カッツェとドルバーナへ使いを出した。二人は意を汲み取って、噂を広める為にプラドを帝国に向かわせた。自分を追い出した帝国に復讐出来ると、プラドは嬉嬉として旅立った。
「容易い」
アシムは小さく呟く。それは、誰の耳にも届くことは無い。そして懐の魔道具へと手を伸ばし、マナを込め、起動させるのであった。
ジョーカーは、牢獄を囲む広範囲に、マナの反応を感知する。
「お嬢様」
「わかってる」
まどかは念の為、周囲に半球状の結界を張る。しかし、結界には何の反応も無い。
「攻撃系の魔術では無いようでございますね」
「あぁ。僅かだけど、空間の歪みを感じた。これは……転移系の魔術かもしれない」
「え?それって、わたし達、この牢屋ごと何処かに飛ばされちゃったの?」
まどかはコクリと頷く。空間が安定し、マナの気配が消えたのを確認してまどかが動く。
「とにかく外に出よう。異空間では無いと思うけど、みんなはぐれないように」




