搦手
伝令は、第一級の緊急事態を告げるべく、宿に入ってくる。
「失礼致します!旅の冒険者まどか一行、国家転覆の罪により、第一級指名手配となりました」
「国家転覆罪、だと?」
「はっ、王国の重席、ロマーノ邸を襲撃、屋敷は爆破炎上し、現在消火活動中。延焼激しく、救出は困難。運良く逃げ出した家人の訴えにより、首謀者は、かねてより調査内定中だったまどか一行と判明、その者以外は全員殺害されたものと断定。王国議会は、緊急手配に至るとの事です」
「おい、まどか、お前達は、朝の散歩くらいの気安さで、国家転覆なんぞやってのけるのか?いくらギルドが冒険者を守ると言っても、犯罪者となれば話は別だ。大人しく捕まってくれぬか?」
ギルマスの狐目が、いつにも増してつり上がっている。周囲には多数の気配、既に騎士団によって包囲されているようだ。
「へぇ、真偽を確かめもせず、大人しく捕まれと?かねてより調査ねぇ……私は拉致られた家族を取り返しただけなんだが」
「こちらも一応、旅の冒険者という事で、便宜上関わってはいたがね、余所者で、しかも我が国に害をなすと聞いて、庇う道理は無いだろう。せめてもの情けに、抵抗しなければ手荒な真似はしない」
「なるほど。ここで暴れようものなら、この場で処刑って雰囲気だね。寧ろそれを狙ってんのかな……いいよ。大人しく従う」
「結構。では、拘束させてもらうよ」
まどか達は全員、縄をうたれる。らっくは抵抗しようとしたが、まどかに諭され大人しく縛られた。ご丁寧に魔封じの効果が付与されているようだ。
一列に縄で繋がれたまどか達。宿の外で待機していた騎士団に身柄を渡され、連行されて行く。ギルマスはそれらを見送ることも無く、踵を返しギルドへと帰って行った。
王国研究機関統括、アシムの屋敷。
「ふむ。ヤツも予定通り動いたようだな。帝国の冒険者風情が、何が出来るという訳では無かろうが、我等の障害となりうる戦力と聞けば、先に取り除くのが戦術の基本よ」
ソファーに寛ぎ、満足気に頷くアシム。
「しかし、帝国では聖女だ英雄だと騒がれた者と聞いたが、我の策の前では手も足も出ぬか。所詮は小娘、噂は噂というわけか」
あの程度で英雄とは、帝国蹂躙も簡単だな……などと、気が抜けたかのように鼻を鳴らし、あくびをする仕草をした。簡単過ぎて退屈だとでも言いたいのだろう。
「まぁ、我等が帝国の殲滅から帰還したら、性奴隷にでもしてやろう。それまで大人しくしてるが良い」
歪な笑を浮かべ、立ち上がるアシム。魔道具を懐に忍ばせ、王宮へと向かうのだった。
一方、王都ギルド内。ファーのギルドマスターのラルゴは、ネム爺を連れ王都に来ていた。
ハンターの一件、その取り引き相手と思われる人物に目星をつけ、その人物を探るためであった。仕事とはいえ、他のギルドの管轄区域となれば、話を通しておく必要があるのだ。
「おい、いったい何の騒ぎだ」
「どうやら、お嬢ちゃん達が捕まったらしい。国家転覆罪だとよ」
そこに戻ってきた狐ギルマス。ラルゴはドカドカと歩み寄ると、胸ぐらを掴んだ。
「おい、てめぇ、お嬢を売ったのか」
「何の事だ?私は罪人を騎士団に引き渡しただけだが?」
「嵌められたに決まってるだろ!さてはてめぇもグルか!」
「離したまえ。私の仕事は王都を守ること。どんな手段を使ってもだ。他所のギルドに、とやかく言われる筋合いでは無いがね」




