漢女再び
まどか達が地下通路を抜けた頃。
「あらあら、また派手に殺られてるわね、キャサリン」
「あらあら、じゃないわよドルチェ。まるで処刑場じゃない」
「いいじゃない。どうせあたしたちが殺るつもりだったんだし」
「そうね。手間が省けたわん」
クネクネと歩いては、指先で死体を摘み上げ確認している二人。カッツェとドルバーナである。摘んではぺいっ!しながら屍山血河を歩く漢女二人。いちいち小指が立っているのが腹立たしい。
この屋敷の主がある人物に呼び出され、その人物の依頼で、留守中の屋敷の掃除に来たところ、既に終わっていた……というのが現状である。
「そろそろ家主が戻って来るんじゃない?」
「そうね。一番のゴミを掃除しないと、怒られちゃうわん」
この屋敷の主、名をロマーノという。魔導研究の第一人者であるが、特にゴーレム開発に詳しい訳では無い。金と智謀で現在の地位を得た、言うなれば鼻つまみ者である。
エントランスでロマーノの帰りを待つカッツェとドルバーナ。程なく、護衛を連れたロマーノの馬車が屋敷の門を入って来た。
「お早いお帰りね、ロマーノさん」
「ちゃんと家人に言っといて。あたしたちにお茶も出ないのよ。失礼しちゃうわん」
ロマーノは身構える。護衛二人が、盾となるように前に出た。
「これはこれは、お揃いで。出したくとも出せなかった……の間違いでは?」
「貴方、ネズミが入り込んだのに、背後も確認しないで始末したみたいね?」
「見当でもついていたのかしらん?」
「その事ですか。大方他の部門の者が探りに来ていたのでしょう。その証拠に、ネズミの正体は魂を宿した人形、我等の技術を盗み、応用したものと確信しております」
「やれやれ、とんだおマヌケさんね」
「他の部門の責任者の所にも、ネズミが入り込んだ形跡があるのに」
「なんですと!馬鹿な、それではアレは……」
「お馬鹿は貴方よロマーノ」
「貴方みたいなのが責任者なんて、迷惑だわ。消えてちょうだい」
「はっ、あの方の腰巾着だから下手に出ていれば……衆道風情に何が出来る!私の護衛は、その辺の鈍とは訳が違うぞ!殺れ!」
ロマーノが命令を下し終える前に、二人の護衛は、カッツェとドルバーナの熱い抱擁を受けていた。
「あら、いい男じゃない!いただいちゃおうかしらん」
「うーん、でももう少し逞しさが欲しいところねぇん」
護衛二人は、漢女の膂力に抗えず、骨を軋ませながら、口の周りに大きすぎるキスマークを付けて、鯖折りにされた。
「人の域を超えないと、あたしたちの相手は務まらないわよん」
「次はもっと滾る男を用意することねん。次があるかは知らないけど」
「ま、待て!いや待ってください!私はまだ役に立つ。なんだってする。だから命だけはっ」
ロマーノはその場で、お手本のようなジャンピング土下座を決めた。地面に額を擦り付ける勢いである。
「この期に及んで命乞いだなんて、萎えるわね。ドルチェ、貴女に任せるわん」
「もう、キャサリンったら、いつも押し付けて……しょうがないわねぇ」
ブツブツと文句を言いながら、ドルバーナはロマーノの頭を優しく撫でた。許されたと思い、身体の緊張が緩んだロマーノ。撫でる手は次第に力が入り、ついにはミシミシと、指先が頭蓋に食い込みそうな程に鷲掴む。
「どっせい!」
ドルバーナの気合い一発。地面に頭の半分以上をめり込ませ、ロマーノは、熟れすぎたトマトのようにシミを広げた。




