冒険者ギルドの憂鬱 2
空き家に案内されたまどか一行。隅々まで見て回るのに、さほど時間はかからなかった。
「うーん……狭いっすね」
「まぁ、屋敷がそれなりに広かったからね。狭く感じるのも仕方ないよ」
「そうね。うん。でも、使い勝手は良さそうよ」
「キッチンも、少し手を入れれば使えそうでございます。地下の物置は、使えそうにありませんが」
「んじゃ、いつものやっとくか。部屋数も足りないし」
まどかはそう言うと、地下へ下り、物置の扉を開ける。人一人がやっと入れるくらいの物置の壁に手をついて
「創造」
と呟いた。淡い光を放ち、見る間に個室が出来上がった。
「三部屋でいいかな。私とメグミ、ジョーカーとハンス、チェリーとコバルト、それぞれ二人で一部屋ね」
「久しぶりに秘密基地だね、まどか」
「なんか、落ち着くっす」
「「わたくし達にまで!感謝の極みにございます」」
「あはは、相変わらずチェリーとコバルト、ハモるのね」
「ん?なるほど。そういうことでございますか」
ジョーカーの眼が赤く光っている。
「ジョーカーは気付いたようだね。わざわざ地下を作ったのは、狭いってこともあるけど、見張りを躱すためでもあるんだよ」
「「見張り?」」
「あぁ、入国審査の老兵と言い、ギルドマスターと言い、私達に監視くらいは付けるだろう」
「そんな!じゃあ今も誰かに見られてるの?」
「多分ね」
「俺、確認してくるっす!」
ハンスが表へ出ようとし、チェリーとコバルトは大鎌と鉄球を取り出し身構える。
「あぁ、今はまだいいよ。それより……」
「「「?」」」
「旅と言えば、ご当地グルメだよ!美味しいもの探しに、街へ出よう!」
「はぁ……ほんとまどかって、楽しいこと最優先だね」
「当然!」
「でしたら、わたくしどもはその間に、お部屋の掃除とキッチンの手直しなど、済ませたいと思います」
ジョーカーの言葉を聞いて、メイドの二人は武器をしまった。
「そっか、わかった。じゃあ私とメグミ、ハンスは、もう一度ギルドへ行って、美味しいお店でも、聞いてみるか」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
こうして一行は、二手に分かれて行動することになった。
まどか達がギルドの扉を「バン!」と開けると、ちょうど目の前にマスターが立っていた。
「ひぃっ!な、まだ何か用か?」
思わず情けない声が漏れたが、必死に平静を装うムジナ。この男、なにかと漏れるタイプらしい。
「せっかくだからこの国の名物でも食べたいと思ってね。どこかおすすめの店でも教えてくれる?」
「ふぅ……ま、この国にも、美味い飯や名物はあるが、今おすすめできる店はねぇよ」
「いじわる言わないでよ。あるんだろ?美味い店?」
「……さっき宿の時も言ったが、どこに行っても連中が居る。ヤツらは冒険者を下に見てるからな。行けばいざこざが待ち構えているようなもんだ」
「さっきも気になったけど、その連中ってなんだ?」
「あんまり客人に言う話じゃねぇが、この街にはハンターっていう、魔物を生け捕りにする連中が居る。たまに勢い余って殺しちまった魔物を売りに来るが、買取りで揉めることも多い。
狩場は荒らされ、冒険者は商売あがったりだ。最近じゃ冒険者辞めて、ハンターになっちまった者もいる。こんなんじゃギルドも立ち行かなくなるってもんだ」
「ふーん、ハンターねぇ……まぁ、私達はよそ者だし、いきなりトラブルにはならないだろう。一番良い店、教えてよ」
「どうしてもってんなら教えるが、くれぐれもヤリ合わないでくれよ」
「あぁ。大人しくしてるよ」
こうしてまどか達は、美味いと評判の店へ向かうのだった。
次回投稿は、12日の予定です。