誤算
チェリーが同化を解き、死屍累々の地下室で唖然呆然のまどか達。
「あ……あぁ、うん。終わったの、かな?」
「え、うん。凄かった、ね」
「ガクブル……」
まどかの声に、我に返ったメグミとハンス。ジョーカーは額に手を当て、首を横に振っている。
「はしたない真似をしました。申し訳ございません」
チェリーの謝罪を まどかはヒラヒラと手を振り
「ま、しょうがないか」
と、不問にした。ぶっちゃけ見なかったことにしたいくらいである。
「丁度ここには、色んな道具が揃ってる。コバルトの再生をしよう」
屋敷内に人の気配が無い事を確認したまどかは、横たわるコバルトの身体から杭を抜き、パーツを組み合わせると、魔晶石をセットする。
「ん?なんだろう、これ」
コバルトの胸あたり、元はオルゴールが入っていた場所に、何かが埋め込んである。見ればそれは、宝珠のようなものであった。
『アイテム情報。【魔導核】
ゴーレム製造において、術式を組み込み意のままに操る為の宝珠。マナを吸収、循環し、同質量の魔晶石の、約二倍の効果』
久々にアプリさんの声が聞こえる。まどかは魔導核を手に取り、更なる解析を行った。まぁ、やったのはアプリさんだけど……
『おそらく、名称コバルトの躯体をゴーレム化して、配下に加えようとして起動に失敗、術式がリセットされたと思われます』
(あぁ、なるほど。メイドゴーレムが欲しかったのか……ロマンを追い求めて失敗、ちょっと同情しなくもないが……)
『推奨。精神生命体である魔族を 魔導核に憑依、同化させる事によって、魔導人形の操作性向上と、外敵からの支配、精神汚染に対する防御力がアップします。』
『え?そうなの?なんか悪いねぇ、遠慮なんかしないけど』
「どうしたの?まどか」
「ん?いや、いい事思いついた。コバルト、出ておいで」
呼ばれた子蜘蛛コバルトが、チェリーの胸元から這い出る。
「コバルト、この宝珠に入れる?」
コバルトはカサカサと宝珠に這い寄ると、吸い込まれるように宝珠に入った。まるで琥珀に閉じ込められた虫のように、魔導核の中心に収まる子蜘蛛。まどかは宝珠を オルゴールがあった場所に収める。
「少しマナを流してやろう」
まどかは人形の胸に手を当て、ゆっくりとマナを流す。すると、
「あぁ、暖かい……」
思わず声をもらすコバルト。宝珠から糸を伸ばし、魔晶石や体内を繋いでいく。それは繭のように、血管を張り巡らせる心臓のように。
杭により穿たれた穴が、逆再生のように塞がり、切り離された下半身は糸により繋がり、人形は再び生命を宿す。
「どうだ?コバルト、動けるか?」
コバルトは、指先の感覚を確かめるように握ると、ゆっくりと身体を起こす。続いて足の感覚を確かめ、立ち上がった。
「問題ありません。マナがまだ回復しておりませんが、それも時期に戻ると思われます」
「とりあえず動けるならよし。ここを脱出しよう」
まどか達は来た道を戻り、宿へ向かう。周囲の索敵をハンスに任せ、まどかはジョーカーと念話を繋いだ。
『どう思うジョーカー、屋敷にはゴーレム兵が居なかった。研究室も個人の趣味の部屋のようだったし、量産する施設にしては狭すぎる』
『左様でございますね。コバルトの様子を見ましても、技術的に確立していないように思われます。何らかの事情で頓挫したのか、或いは……』
『あぁ。逃亡したという、人型ゴーレムが関係しているかもしれない』




