家族(ファミリア)
『……マド、カサマ』
微弱な念話が届く。決して強くない今夜の風の音にさえかき消されそうな声……
『コバルト、なのか?』
突然耳を押さえ、虚空を見るまどかに、一同はピクっ!となり視線をまどかに固定する。
『は、い』
徐々にではあるが、念話が強くなるような気がした。
『何処にいる?』
『今、参り、ます』
現れたのは小さな蜘蛛。天井よりスルスルと糸を伸ばし、まどかの眼前に降りてきた。普通の女の子ならば、悲鳴をあげそうな状況だ。
『……よく、よく帰ってきた。一先ず……そうだな、私の肩に乗れ』
『そん、な、恐れ、多い……』
『いいから!』
『で、では、失礼いたし、ます』
蜘蛛を肩に乗せて涙ぐむまどか。ハンスは慌てて蜘蛛を払おうと手を伸ばすが、まどかが制止する。周りのみんなは、その奇行を 一瞬引いて見ていたが、すぐにその蜘蛛がマリアの子蜘蛛だと気付く。
「みんな!コバルトが戻った」
「「「へ?え?えぇーっ!」」」
コバルトの念話が届かない一同が、ようやく状況が飲み込めたところで、まどかが説明する。蜘蛛の身体で、弱体化もしており、まどかの耳元でなんとかまともな念話が繋がる状態である。通訳のような形でまどかが皆に伝えた。
「……つまり、屋敷の多重結界に掛かり、弱体化、魔封じ、マナ阻害等の搦手により捕らえられ、解体され、魔晶石を抜かれた。その直前に魂を子蜘蛛に移し、脱出……ということらしい」
「油断……ですか?情けない」
「お嬢様、わたくしの指導不足でございます。何卒……」
「ジョーカー、それは違う。今回の相手は、それ程の知識と技術を持っている……ということだよ。誰も責めるな。チェリーもな。自分も含めてだ。あえて言うなら、こんなことに巻き込んだ、私の責任だ!」
「巻き込んだなど……わたくしは自らの意思で、まどかお嬢様に付き従っているのでございます。責めません。決してそのような真似は致しません」
「わかってくれたなら、それでいい」
「そうね。今は無事……無事?戻ってきた事を素直に喜びましょう!」
「そうっすよ。良かったっす!」
「仰せのままに」
ようやくいつもの雰囲気に落ち着く一同。
「しかし安心は出来ない。受肉した身体から、無理矢理魂を移したんだ。マナが相当弱まっている。現に、念話を飛ばせる範囲も極わずかだし、生命維持だけで目いっぱいだろう。なるべく早く、身体を取り戻したい」
当然と言わんばかりに、全員が力強く頷く。
「あらゆる結界を無効化する術と、弱体化対策を立てて、乗り込む!」
「わかったわ」「承知」「「かしこまりました」」
「コバルト、一先ずわたくしの身体にお入りなさい。マナを分けてあげます」
チェリーがまどかの肩に手を伸ばし、子蜘蛛のコバルトを受け取る。
「魔晶石足りなかったら言うっすよ。俺も結構貯めてるっすから」
「ありがとうございます」
「よし。これでコバルトの生命維持は大丈夫だな。んじゃあ、情報を元に、対策を立てるよ」
それから、屋敷の見取り図を描き、侵入経路や屋敷の戦力、搦手の対策が話し合われた。ハンスの義手に仕込まれた技術と、メグミがネム爺との模擬戦で得たスキル、まどかの裏ワザによる新スキルも総動員し、一応の対策が出来たのは、日付が変わって少し経った頃であった。




