どこから片付ける?
その夜、コバルト以外のメンバーが宿屋に集まった。らっくを寝かせ、ジョーカーの煎れた香り高いお茶を一口飲み、息を一つ吐くと、まどかが手を挙げた。
「じゃあ私から。ファーのギルドが調べた結果、この国には秘密の研究機関があり、少なくとも三つの部門がある。
研究内容はそれぞれの責任者とごく一部の者しか知らず、集められた者達は、言われた通りの研究をし、データを集めているに過ぎない。
現在把握出来ているのは、魔族の召喚部門、魔獣のスキル研究部門、ゴーレム研究部門だ。各部門はそれぞれ、我々こそがこの国随一と言わんばかりに、他部門を敵視しているらしい。そして、その全てを統括しているのが……」
「わたくしの潜入いたしました、アシムでございますね」
「そういうことだ。ジョーカー、何か掴めた?マリアの子蜘蛛達は、役に立ってる?」
マリアとは、もう一人の仲間である。まどか達と敵対したサキュバスの生き残りであり、バンパイアの悪事に利用され、罪を押し付けられ、まどかの手により討伐されるはずだった。
そのカラクリを暴いたまどかによって命を救われ、仲間となる。現在は、MJ2の本拠地と言える【名も無き島】の屋敷兼、魔族の為の教会を管理しており、各地に糸を張り巡らせ、子蜘蛛を使い、情報収集をしている。
「はい。此度の屋敷には、気配察知に長けた者や、結界によって音を遮断された部屋などございましたので、重宝いたしました」
「それは良かった。じゃあジョーカーの報告を聞こう」
「はい。彼の者の目的、それは、圧倒的な武力の行使。それにより他の国々を圧倒し、事実上の支配下に置こうというものです」
「武力制圧か……どこの世界も、どの時代も、この手の独裁主義者は居るもんだな」
「それが、ただの独裁主義では無いようでございます」
「と言うと?」
「はい。圧倒的な武力行使は一度だけ。大義名分を立て、帝国を蹂躙し、その様を各国に見せ付ける。見せしめとでも言いますか、それにより周辺諸国を沈黙させ、抑止力とするのが目的のようでございます」
「一罰百戒……何処の信長公だよ、ったく」
「は?」
「いや、なんでもない」
「まどか、わたしからもいい?」
「あぁ、メグミ」
「わたしはとにかく、コバルトが心配なの。ギルドで聞いた話、コバルトが行ったお屋敷って、責任者の一人だよね」
「あぁ。たしかゴーレム研究のね」
「取り返しに行きましょう!ね?」
「多分、みんなも同意見だよ」
「じゃあ」
「ただ一つ、焦っちゃダメだ。コバルト程の者が捕まえられ、壊されたとなると、相手はそれ以上の何かを持っている事になる。それが解らないと、対処出来ずに全滅ってこともありうる」
「そ、それは……」
「チェリーに釘を刺したのもその為だよ。唯一情報が無い屋敷だ」
「じゃあ、どうするの?コバルトのこと、放っておくの?」
珍しくメグミが熱くなっている。それを制したのは、ジョーカーだった。
「メグミお嬢様。一番怒っておられるのは、まどかお嬢様でございますよ。まどかお嬢様はコバルトの創造主、言わば親でございます」
メグミはハッとしてまどかを見る。親が子を殺されて、平気であるはずがないのだ。ただこれ以上、我が子を殺されてなるものか!というのもまた、親心である。一人葛藤し、沸騰する血を沈め、冷静に判断し行動する……それが如何に困難な事か、メグミは今気付かされたのだった。




