蠢く者達 2
一日飛ばしてしまいました……
席を立とうとした二人に、アシムが声をかける。
「アイツは使えそうか?」
「ダメね。我儘だし」
「商品に手を出すようなヤツは、信用出来ないわ」
「そうか。まぁ、捨て駒には丁度いい。せいぜい踊らせておけ。あれでも元男爵らしいからな」
「帝国に入り込むのに使えそうかと思ったんだけどね」
「アイツと同じで、使えそうなコネもなかったわ。よっぽど嫌われてるのね」
「首でも持っていった方が、使い道はあったかもな。それも最早、必要ないがな。ふははははは……下手な動きをせんように、見張りだけはしておけ」
「ゼロが付いているわ」
「こちらの命令には、従う男よ」
「あぁ。暴走の危険はあるが、アレは使える」
「暴走させたの、貴方でしょ」
「わざわざ研究施設一つパァにしちゃって」
「性能テストとしては、良いデータが取れたよ」
「ついでに秘密を知った魔導師の口封じ」
「おぉ怖い怖い。さっさと退散しましょ」
二人の漢女は、自分の肩を抱くように身震いの真似をして、バチコンッ!と音がしそうなウインクを残し部屋を出た。
「お帰りでございますか?」
「そうよーん」
「見送りはいらないわん」
静かにその場で礼をするジョーカー。そこにチェリーの念話が届く。
『ジョーカー様、緊急事態でございます!コバルトの反応が消えました』
『ふむ。念話も届きませんね……わかりました。わたくしはまだ、ここを離れる訳にはまいりません。貴女はこの事をお嬢様にお伝えし、指示を仰ぐのです。くれぐれも単独行動はしないように』
『かしこまりました』
(コバルトに限って、簡単に死ぬようなことは無いでしょうが……お嬢様とのお約束、違えたとなれば、わたくしの責任ですね)
ジョーカーは、部屋に忍ばせていた子蜘蛛を袖口にしまうと、あらゆる可能性を思案するのだった。
「さて、古地図も手に入ったし、面白い話も聞けた。一度宿屋に帰るか」
「そうね、まどか。わたしもネム爺さんと模擬戦まで出来たし、色々得るものも多かったわ」
ファーの町からの帰り、街道を行くまどかとメグミ。転移も使えるまどかが、あえて使わない理由……それは、一定の距離を保ち、背後から追ってくる気配を察知したからであった。
ギルドの見張り役は、随分前に付かなくなっている。実力差を見せ、信頼も得たことで、不要と判断されたからだ。そんな今考えられる追手となれば、ハンターの雇い主か、国の関係者、で無ければ、変質者の類いだろう。
(人通りも多いし、下手に騒ぎは起こしたくないなぁ。向こうもそう考えてくれてるといいけど)
『お嬢様、緊急事態にございます』
チェリーの念話が届いたのは、その時だった。まどかは妙な胸騒ぎを覚える。
『チェリー、合流出来るか?』
『直ちに』
岩陰に転移で飛び、まどか達に合流するチェリー。三人は歩きながら、念話での情報交換をする。
『……なるほど、事情はわかった。チェリーが現れた途端に、追手の気配に明らかに動揺があった。もしかすると、コバルトの件にも関わっているかもしれない』
『捕えますか?』
『慎重にな』
『かしこまりました』
再び姿を消すチェリー。はるか後方で男のうめき声がする。襟首を掴まれ、引き摺られる男。見た目は旅の商人風ではあるが、服がはだけて帷子の着込みが覗いている。
男は咄嗟に、奥歯に仕込んだ毒を噛むが、まどかの解毒の魔術で無効化された。
「そんなに死に急ぐなよ。ちょっとだけ、お話しようか。ね?命は大事だから」
次回投稿は、25日の予定です。




