子供相手にムキになって
「なっ、お、俺だって」
「ハンスの方が呼びやすいにぃ。らっくが様って呼ぶのは、ラキ様だけにぃ」
「ぐぬぬ……」
(ダメだ、俺は大人っす。子供は考え無しに人を傷付ける言葉を吐くっす。ここでムキになって言い負かしても、嫌われるだけっすね。
そうっす。これは反抗期ってヤツっす!でも下手に出ると、調子に乗るっすね……ひとまず保留っす)
「ハンス、らっくは何をすればいいにぃ?」
「あ、あぁ、そうっすね。まず、強いヤツの気配を感じたら、全力で逃げるっす」
「らっくも強いにぃ!負けないにぃ!」
「ダメだ!今街中で騒ぎを起こしたら、まどか様の計算が狂ってしまうっす」
「たっちゃん、困るにぃ?」
「そうだ。約束守れるか?」
「わかったにぃ!たっちゃん困ることしないにぃ」
ハンスはゼロとの遭遇だけは避けたかった。底知れぬ強さを秘めたゼロに、二人がかりでも勝てる気がしないのだ。前回は見逃してくれたが、命令次第で攻撃されるのは予想がつく。
「よし。後はそいつの匂いを覚えるっす。頃合いを見て、隠れ家を探すっすよ」
「わかったにぃ!」
「もう一つ。もしどちらかが捕まった時は、急いでまどか様に知らせるっす。俺が捕まっても、一人で助けようと思っちゃダメっす。その代わり、らっくが捕まっても、すぐには助けに行けないっすよ」
「えーっ、一人は寂しいにぃ」
「まだまだ子供っすね。心配いらないっす。らっくが捕まりそうになったら、俺が時間を稼ぐっす。その間に逃げるっすよ。二人とも捕まったら、誰も助けに来れないっす」
ハンスはあえて嘘をついた。念話通信も使えるのだ、助けを呼ぶ方法など、いくらでもある。それを言わなかったのは、らっくを人質に取られることだけは、何がなんでも避けたかったからである。
らっくが操獣士であり、利用価値が高いということもあるが、何よりまどかが悲しむからだ。無茶をやらかす可能性も高い。らっくには、逃げに徹して欲しかった。
「にゅう……わかったにぃ」
(これでとりあえずはいいっす。まどか様が本気で動けば、戦争と同じっすから。それはまどか様も望んでないっす)
ハンスはまどかの力を 正しく把握している。それは国を救う力。同時に国を滅ぼす力でもある。そしてハンスは、ゼロもその力に匹敵すると考えていた。
「慎重に行くっすよ」
二人は小太りの男と一緒に居るであろう、ゼロの気配を 感知可能なギリギリの距離を保ち、我慢比べのような探索を開始した。
とある屋敷の一室。冷たい金属製のベッドに横たえられたメイドが一人、手足を拘束され、眠っている。
深く蒼い髪は美しく、陶器のように艶やかな肌には傷一つ無く、描く曲線の黄金比は神の造形と言わんばかりに美しい。
ただ不粋なことに、せっかくの美しい彼女の胸には、直径五センチ程の杭が打ち込まれていた。腰から下は切り離され、まるで弄ばれた標本のように無慈悲な姿である。
「ゴーレム研究の第一人者である私の屋敷に、まさかこのような者が潜り込んで来るとはな」
手分けして潜入調査を開始した矢先、結界に捕えられ、無力化されたコバルトは今、完全に機能を停止していた。
「魔人形か。悪魔研究部門のヤツらめ、このような物を作っておったか。じゃが私にかかれば、ほれ、この有様よ。はははは……」
冷たい部屋に、男の冷たい笑いだけが響いていた。
次回投稿は、22日の予定です。
せめて今月いっぱいくらいは、毎日更新出来るようにしたいっ!
ホントはもっと、出来れば最後まで……




