冒険者ギルドの憂鬱 1
ドタドタと女性に手を引かれる男。
「な、なんだ!いや、引っ張るな!ほらあぶ、危な……階段は……」
「一大事です!急いでください!ランクB冒険者です!」
「それはさっき来たじゃろ。まだ何か用か?」
「違うランクBなんですよ!女の子です!」
「なんじゃと!」
息を切らし、駆け下りて来た小太りの男。狸のような顔に仕立ての良いピンストライプのスーツ姿。どうやらここのマスターらしい。
「……全く、次から次に厄介事が……オホン、私に何の用かな?お客人。マスターのムジナだ」
「心の声が漏れてるっす。マスターも獣人なんすか?」
「誰が狸顔だ!私は人種だ!来た早々失礼なヤツだな」
「ウチの連れがすまない。私達は旅の冒険者パーティ。この国へは道中立ち寄ったに過ぎない。一応礼儀として、挨拶に来ただけだ。顔くらいは見せておかないとね」
「そうか。で?パーティのランクがBなのか?」
「まぁ、そういうことかな」
「なるほどなぁ、そう日に何人もランクBが来る事などないか。おおかた、後ろの男がパーティを底上げしてるんだろ。じゃなきゃ、小娘揃いのパーティが、Bまで上がる事など……」
「そのお見立ては、残念ながら間違いでございます」
「ん?」
「ジョーカー、スルーでいいのに」
まどかはそう言うが、ジョーカーは言葉を続けた。
「お嬢様、差し出がましいですが、わたくしも主を愚弄されるのは、些か気分の良いものではごさいません。口を挟む事をお許しくださいませ」
「はぁ……」
「こちらのまどかお嬢様は、おひとりでランクBの冒険者でございます。我々は言わば、お嬢様に拾われた身。パーティ最強は、まどかお嬢様でございます」
ジョーカーの圧に押されて、たじろぐムジナ。納得はしていないが、パーティ全員が頷く様を見て、とりあえずこの場を収める事にした。
「わ、わかった。それで?しばらくこの国に滞在するのか?であれば、居場所くらいは教えておいてくれんと、こちらとしてもトラブルは避けたいのでな」
「それが、今着いたところなんだ。どこかおすすめの宿はある?」
「宿かぁ……多分どこもいっぱいだろうぜ。連中が借り切ってるからなぁ」
「連中?」
「あぁ、こっちの話だ。そうさな……おぉ、街の外れに空き家がある。ウチの冒険者だったヤツの家だが、事情で居なくなっちまった。そこなら全員泊まれるだろ」
「じゃあ、そうさせて貰うよ。助かる」
「わかった。案内を付けよう。おい、キンタ!」
「へい。」
キンタという小男に連れられ、ギルドを後にした一行。まどか達が居なくなると、途端に騒がしくなった。
「おいおいマスター、あんな奴らに街の周りで魔物狩られたんじゃ、俺達の仕事が無くなっちまうぜ?」
「おぉともよ!ただでさえ連中に荒らされてるって言うのに、これじゃ冒険者は皆、廃業だ」
「まぁ待て。ランクBってのが本当なら、それに見合った仕事に制限すればいい。それに……上手くいけば、潰しあってくれるかもしんねぇ」
「そんなに都合のいい話あるかい!」
「そうさな、黙って見てるだけじゃあ、無理だろうな」
「ってことは、マスター?」
「そうなるように仕向けるのよ。俺達でな。おめぇら、耳かせ」
「ヒソヒソヒソ」
「コソコソ……」
「なるほどー!」
「やれるな?」
「あぁ」
「しかし、流石はマスター。あんた、狸だな」
「誰が狸顔だ!しばくぞ!」
「これでやっと、憂鬱な毎日から解放される!」
「だな!」
冒険者達は、それぞれ安堵の声を漏らした。
次回投稿は、11日の予定です。