隠れ家 2
この国には、冒険者ギルドのように、執事やメイド、小姓といった者達の互助組織がある。
現代風に言うなら、家政婦紹介所といったところだろうか。
決してドアの隙間や柱の陰から覗いて
「あら嫌だ」
などと呟き、事件に巻き込まれるような事は禁止事項とされている。増してや説教じみた事を言ったり、探偵まがいの推理など言語道断である。奉公先の秘密を外部に漏らすような者は、この組織には加入出来ないのだ。所属する者達も、奉公人の矜恃として弁えている。
「良いでしょう。合格です。登録を認めます」
「ありがとうございます。誠心誠意務めさせていただきます」
ジョーカーは無事、登録を完了した。
奉公人協会……これが組織の名である。会員証を受け取り、早速募集掲示板を見ている。
「なるほど。意外と多いですね」
すると、小姓風の男が声をかけてきた。
「旦那、旦那、ちょっとちょっと……」
周りに聞こえないように、コソコソと小声である。手招きする男について、掲示板から離れるジョーカー。
「どうかされましたか?わたくしに御用でしょうか?」
「旦那、他所から来なすったね」
「えぇ、左様ですが」
「なるほどな。知らないようだから、旦那に忠告しとくよ」
「忠告……でございますか」
「あぁ。あそこに貼られてるお屋敷は、ヤバい所ばっかだ。奉公人の入れ替わりが激しいのさ」
「ほう、それは躾が厳しい等の類いですかな?」
「まぁ、そういう所も無いわけじゃないが……」
途中まで言いかけて、更に近付く小姓風の男。耳打ちというやつである。
「奉公人が行方知れずになったり、突然登録を取り消して、田舎へ帰る者が多いんだよ。その家の内情を語る事は無いが、みんな酷くやつれて、逃げるように去って行っちまうんだ」
「なるほど。ワケありということですな」
「暗黙の了解ってヤツさ。誰も受けたがらない。ここの連中は、貼り出されない仕事の情報を受付で仕入れて、奉公先を決めてんだよ」
「ご忠告ありがとうございます。ですが、わたくしの様な余所者の新参者には、なかなか情報は頂けないのでは無いですか?多少なりとも、条件の厳しい仕事でも、こなして実績を上げなければ、良い仕事は回して頂けないかと」
「まぁ、それはあるかもな。ただ食うに困ってるとか、切羽詰まって無闇に飛びつかない事だね。冷静に考えるこった」
「なるほど。心掛けます。では頭を冷やす為に、今日のところは帰ると致します」
ジョーカーは一礼して、協会の建物を出た。
(うむ。これは一度、お嬢様に御相談することにしましょう。場合によっては、チェリーとコバルトにも手分けして探る必要があるやも知れませんね)
ざっと思考をまとめると、ジョーカーはまどか達の宿泊先へと向かうのだった。
ハンスは小太りの男の行方を掴めずにいた。
男が入った路地は、集合住宅のように同じ形の建物が並んでおり、看板や表札の類いも無い。
人通りも殆ど無く、聞き込みも出来ない状態である。
「うーん、俺もらっくくらい鼻が利くと、追えるんだろうけど」
ふと漏らした自分の言葉に、ハッとして妄想モードに入る。
(待てよ、らっくを手懐ける事が出来たら……いやいや、らっくはまどか様に、それこそ子供のように懐いている。らっくが俺にも懐いてくれたら……)
思わずぐふっ!と声が出る。
(らっくにとって、まどか様がママ、俺がパパ……となれば必然的にまどか様は俺の……)
ハンスはヒャッハーしながら、まどか達の宿泊先へと向かった。
次回投稿は、18日の予定です




