観光なんでしょ?
王都ギルドのマスターは、青っちろい狐顔の男で、どう見ても元冒険者という雰囲気では無い。
佇まいは、詐欺師かカジノのディーラーといったところである。ファーの町の狸マスターとは反りが合わず、二人の口論はよく【化かし合い】と揶揄されているようだ。
だがこの男、実は銀狐の獣人で、名をファガットという。諜報活動に長け、サーベルを使えば右に出るものは居ないと言われる剣士であったらしい。人を見かけで判断してはいけない、良い例である。
「なるほど。あの狸ではお嬢さんの強さは見抜けないだろうねぇ。貴女、帝国で名を上げた聖女まどかですね」
「調べたの?」
「あの狸と違って、ギルドを預かる者としての情報収集は、怠らないつもりです。噂が本当なら、ランクAをも凌駕する実力とか」
「大袈裟だよ。誰が流した噂か知らないけど、たまたまランクB以上と言われる職業に、適正があっただけの事」
「そうですか。こちらの情報では、人を超えた、神の御業を使ったと聞いていますが?」
「見間違いだろう。そんなことが出来るなら、冒険者なんてやってないよ」
「そうですか。まぁ、無闇に力を見せると、兵器利用や占有を目論む者も居るでしょう。避けたい気持ちも理解出来ますよ」
「兵器利用ねぇ……じゃあ、その理解したついでに、この街の地図が欲しいんだけど」
まどかは思った。この男、国の内情を 何か掴んでいるのでは無いか?と。そしてそれをまどか達が探りに来たのだと感づいているのでは……と。
「そうですか。この街には、名所旧跡といった観光に向いた場所は少ないのですよ。面白い所と言えば……これですかね」
ギルマスは、二枚の紙をテーブルに出した。一枚は街の地図。目印になる建物や、食事処等が記してある。もう一枚は、縦横に何本も線を引いたもの。所々に赤い印がつけてある。
「簡単な謎解きです。暇つぶしにはなるでしょう」
「ありがとう。ゆっくり観光させてもらうよ」
「面白いものが見つかるといいですね」
ギルドを出たまどか達は、ギルマスおすすめの宿屋に向かう。既に予約を入れてくれていたようで、寝室二つにリビングスペース、簡易キッチンもあり、五人で宿泊しても申し分無い広さの部屋に案内された。
「さてさて……」
まどかが地図をテーブルに広げる。試しにもう一枚の紙を重ねてみた。
「うーん、縦横の線と道が重なると思ったんだが、そういうワケでも無いのか」
「ねぇまどか、地図とは関係ないんじゃない?赤い印も、どこかの建物ってワケでも無いみたいだし」
しばらく二枚の紙と格闘する。裏返してみたり、回してみたり、折り畳んだり……どれもしっくりこなかった。
「ヤメヤメ。この件は保留。らっくも飽きてるし、なんかお腹空いたよね」
「まどか、さっきのミルクレープ食べたいだけでしょ?」
「ほら、頭使ったら糖分補給って言うじゃん。らっくもおやつ食べたいよなぁ」
「食べたいにぃ!」
「らっくちゃんをダシに使うのはズルいと思うけど?」
「じゃあメグミは留守番ね」
「行くに決まってるでしょ!もう!」
「「お嬢様、では我々が留守を……」」
「チェリーとコバルトも一緒に行くの」
「「仰せのままに」」
「なんか、急に我儘にならなかった?まどか」
「そうかな?まぁ、肩の荷が一つ軽くなったのは確かかも。なんか、本当の意味で生まれ変わった気がする。どうせなら、この異世界を楽しもうと思ってるのは事実だよ。その方が、この世界の事を理解出来ると思うからね」
次回投稿は、16日の予定です。




