カッツェ&ドルバーナ
市場の外れにある古びた建物。
雑貨屋のようだが客はほとんど居ない。カウンターにいる二人は、他の商売人のような愛想も無く、かと言って職人肌の頑固親父という訳でも無い。
二人の名はカッツェとドルバーナ。看板の名にもなっている、一癖も二癖もありそうな男?である。
何故、男?なのかと言うと、大層な口髭を生やし、ざっくりと胸元を開けたフリル襟のシャツから胸毛が覗いているのに、頬と唇に紅をさし、薄紫のアイシャドウにつけまつげという出で立ちなのである。
「はふーん……さっぱりねキャサリン」
「ダメよドルチェ。ため息なんかついたら、幸せがフライアウェイなのよ」
「だって暇なんですもの」
もう一度言う。カッツェとドルバーナである。
「二人とも、変わりはないか?」
「「ボスぅ!」」
扉を軋ませ、中に入る小太りの男。二人にボスと呼ばれたこの者こそ、人材斡旋業者プラドであった。
男爵時代の配下と裏社会のコネを駆使し脱獄、帝国を離れ、商人の積荷に紛れてこの国に入った。あてもなく彷徨ううち、この店の前で倒れ、二人の母性本能により救われた。
体力を回復したプラドは、ここを拠点に裏の仕事を始め、グレーゾーンの二人も、グレーゾーンの仕事を手伝ううちに配下へ取り込んで現在に至る。
今では、女性人材をプラド、男性人材の内、肉体労働系をカッツェ、頭脳労働系をドルバーナが担当している。どうやらそれぞれの好みで仕事を割り振ったらしい。
「ねぇボスぅ、そろそろ逞しい漢の依頼は無いのかしらん?」
「そんなむさいのよりぃ、クールガイの依頼はぁ?」
「それどころでは無いぞ。二人共、しばらくは普通に雑貨屋をしておれ」
「あらぁ、何かあったの?」
「カッツェが男を探しに行った奴隷商人が、何者かに襲撃にあった。ヤツはウチの名を出したらしい」
「やだぁ、キャサリンって呼んでっ!じゃあ、今度はウチが危ないってこと?」
「……そうなるであろう。儂は女共を連れて拠点を移す。その間、二人は時間を稼ぐのじゃ」
「わかったわ。ボスの頼みだもの、お姉さん何だって聞いちゃう!ねぇドルチェ」
「仕方ないわねぇ。了解よ、ボスぅ。いい男だったら、頂いちゃうかも!」
何度でも言う。カッツェとドルバーナである。
「好きにするがよい」
そう言い残し、プラドは男に指示を出すと、裏口から倉庫へ向かおうとする。
「ちょっとボスぅ、ゼロを連れてっちゃうの?」
ゼロというのは、路地裏でうずくまっているのを たまたま通りかかったプラドが拾った男である。終始無言無表情ではあるが、それ以降プラドに従っている。言うまでもなく、プラドは拾って連れて来ただけで、世話をしたのはこの店の二人であった。
「儂一人では、女共全員連れては行けぬ。護衛と荷物運びに使ってやる」
「えー、私達の護衛は?」
「自分達でなんとかするがよい」
「もぅ、我儘なんだからぁ。まぁ、そんなところもグッと来ちゃうんだけど……」
倉庫までの間、プラドは一人で喋っていた。
「良いか、お前を拾ってやったのは儂だ。感謝し、奉り、その身を捧げるのは当然だ」
「……」
「お前は力だけは強い。儂の手足となり、盾となって恩を返すのだ」
「……」
「ふん!返事も出来んのか。まぁよい、黙って儂に従っておるうちは使ってやる」
「……」
「無表情なヤツめ。全く、何を考えておるかわからぬ」
ゼロは、ただ無言でプラドについて行った。
次回投稿は、12日の予定です。




