王国へ 2
まどか一行を乗せた船は、王国の玄関ファーへと入港する。
入国審査を受け持つ兵士は、老獪な男。現役を退きはしたが、その経験と観察眼で、入国の管理を任されているらしかった。
「おい!お前達、血の匂いがするな。足の運びも、武人、達人のそれだ。何者だ?何しに来た?」
(やっぱり来たか……)
「こんな見た目だが、私達は冒険者だ。血の匂いはそのせいだろう。旅の途中で立ち寄った。まぁ、目的のある旅では無いが、世界を見て周っている。これがギルドカードだ」
「ほう。帝国の冒険者か。何か探りに来たのか?」
「言っただろう?旅の途中だと。それに冒険者は、国との関わりを好まない。そもそも私は帝国の生まれじゃないしな。たまたま冒険者になったのが、帝国にあるギルドだっただけだよ」
「……ふん!まぁいいだろう。下手に動き回らないことだ。ウチの兵士は鼻が利くからな。獣人も多く、勘働きも鋭い。大人しく観光でもして立ち去ることだ」
「覚えておくよ。あぁそうだ、この国の冒険者ギルドはどこ?一応、顔を出すのが礼儀だからね」
「なるほど。ギルドがお前達の行動を掴んでおけば、問題ないか……ここを出て大通りをまっすぐ、二つ目の辻を左だ」
「ありがとう」
まどか達は老兵との心理戦を終え、ようやく王国の地を踏んだ。ギルドへと向かうまどか一行。
「……はぁ、どうなる事かと思ったっす」
「ほんと。でもまどか、よく顔色ひとつ変えないで、あんなもっともらしい台詞出てきたね?」
「ん?あぁ、もっともらしいって言うか、ほんとの事だからね。旅の途中だし、世界を見て回ってるのも、帝国の生まれじゃないってことも、全部ね」
「まぁ……確かに」
「まどか様って、こういう時肝が据わってるって言うか、男らしいっすよね?」
ハンスの一言に、まどかの目のハイライトが消えた。
「ほう、誰が男らしいって?(まぁ男なんだけど)」
まどかは転生者である。
辰巳左門。五十一歳バツイチ。職業 アイドルヲタクのトラック運転手。
この世界に転生する際に、どこをどう間違ったか、辰巳一推しのアイドルの姿になってしまった。
「……にしても、ほんとに亜人種が多いよね。噂通り」
まどかとハンスがわちゃわちゃやっている間、メグミは街のあちこちを見ながら言った。
船から荷降ろしをする熊の獣人、猛スピードで配達をこなすチーターの獣人、建築中の家は猿の獣人が、するすると高所へ上っている。
「適材適所ってヤツだな。お、着いた。ここだな」
ジョーカーが扉を開けて、両サイドにメイドの二人が分かれる。まどか達が中へ入ると、ギルドは退屈そうな冒険者で溢れていた。
「を!お嬢ちゃん、依頼か?だったら俺を指名しなよ。迅速な対応、お値段お手頃、どうだ?」
「やめときな!そいつは迅速じゃねぇ、雑なだけだ。指名なら断然俺だぜ!丁寧な仕事、アフターサービスも万全だ!」
「何が丁寧だ。アフターサービスだ。お前は仕事引き伸ばして、追加料金せしめるつもりだろ!」
「なんだと!」
「やんのか!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいませ。依頼では御座いませんよ」
宥めるジョーカーに、舌打ちしつつ席に座る冒険者。まどかは苦笑しながらカウンターへ向かった。
「私達は旅の冒険者。今日はマスターにご挨拶に来た。取り次いで貰えますか?」
「んぁ?」
受付で揚げ芋をかじっていた女性は、指についた塩を舐めながらギルドカードを受け取る。カードを二度見し、水晶に翳し、顔を青ざめ、直立不動になる。油の付いた手で触っていたカードを丁寧に布で拭き、震える手でまどかに返す。
「し、失礼しました!直ぐ呼んで参ります!」
先程までの眠そうな目が、まばたきを忘れたように見開かれ、二階へと駆け上がって行った。
次回投稿は、10日の予定です。