【こどもの日特別編】らっくと近所の子供たち
ちょっとほのぼの?回
転生前のお話です。
公園で拾われて数日経った土曜日、なかなか引き取り手が見つからない仔猫に、らっくと名付け、今日も仕事に行った辰巳。
「名前がねぇと、なにかと不便だからな。便宜上らっくにした。トラックのらっくだ」
と、あくまでも仕方なしだと強調する辰巳。しのぶはこっそり、
『とか言って、情が移っちゃったクセに……ホント素直じゃないなぁ』
と呟いたが、辰巳は聞こえないフリだ。
そんな辰巳の家の前に、三人の子供達がいた。
「あ、首輪つけてもらったんだ。らっくって書いてある」
「お名前、らっくなんだね。可愛い!」
「ほらほらー、ご飯用意してあげないと。おじさんと約束したんだから」
この子達は、公園で最初にらっくを見つけた、近所の子供達である。辰巳が仕事で居ない間の面倒を見る、という条件で、仕方なく家に置いてやる事にした辰巳。その割には、玄関の扉に、らっくが出入り出来るような、小さな猫用扉を取り付けたりしている。
「らっくがもう少し大きくなったら、僕フライングディスクで遊びたい!」
「えー?それ犬じゃないの?猫だったら、ボールとかの方が良くない?」
「そっか。んじゃ、ボール投げて、らっくに取ってきてもらう」
「それも犬だよ」
ミルクを飲むらっくを囲んで、好き勝手な妄想をする子供達。
(ん?ぼーる?)
「別にボールじゃなくても、揺れたり動いたりする物に、飛び付くらしいよ」
「へー、じゃあ明日、なんか持ってこようかな」
「明日はおじさん休みだから、来なくて大丈夫な日だよ。だからうちでゲームするって約束だろ?」
「あ、そっか」
らっくは聞き慣れないボールという物に、興味津々だったが、思わぬ形でおあずけを食ってしまった。
(にゅう……なんだったんだろ、ぼーるって……)
「そういえばさぁ、学校で鯉のぼり作ったじゃん。らっくにも作ってあげようよ」
「いいねぇ!喜んでくれるかな?」
「猫ってお魚大好きだから、きっと喜ぶよ!」
子供ならではだろうか、ほぼ思いつきで喋るので展開が早い。
(ん?おさかな?)
「んじゃ、僕のノート使っていいよ」
「じゃあわたし、色塗りたい!」
「のりはあるけど……なんか棒ないかな?」
「あ、これは?」
「よし、その棒に貼りつけよう!」
こうして子供達は、ノートを破り、鯉の絵を描くと、色鉛筆で塗った。青と赤と緑の鯉のぼりを 棒に並べて貼っていく。
「「「できたー!」」」
「なかなか上手く出来たね」
「見て見て、らっくがじーっと見てるよ」
「美味しそうに見えるのかな?」
満足気な表情の三人。らっくは自分が作った鯉を見てるんだと、それぞれが言い合っている。
「そろそろ帰ろうか」
「うん。そだね」
「じゃあね、らっく。また遊ぼうねー」
子供達は、達成感を胸に帰って行った。
(あれぇ?あんまり遊んでもらってないよ?もう帰っちゃうの?もっと遊んでよー)
らっくの声は届かない。だって猫だもの。
(えーい、こうなったら、みんなが作ったお魚、捕まえてやるー)
傍から見れば、鯉のぼりにじゃれている仔猫の微笑ましい風景だろう。棒にカリカリと爪をたて、やっとの思いで倒し鯉を押さえ付ける。
ふんすっ!と鼻息荒く、獲物の上で仁王立ちするらっく。得意満面である。
ちなみにその棒は、辰巳が大事にしている、少々お高い釣竿であることなど、子供達やらっくには分からない事実である。
散々弄ばれた鯉のぼりと、のりベタベタで傷だらけの釣竿を見て、辰巳の魂が抜けそうになるまで、あと六時間ほどであった。
次回投稿は、6日の予定です。




