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一本角 3



「ワシは夢を見ておるのか?」


「爺さんが夢だと思うなら、それでいいんじゃない?」


ふわりと着地したまどかが、ネム爺にイタズラな笑顔を向ける。


「こりゃ魂消たなんて生易しいもんじゃ無いぞ。神話級の戦いじゃて」


「大袈裟だよ爺さん、ちょっと相手がただの魔獣じゃ無かったって話だ」


「こんなもん、どう報告すりゃいいんじゃ……見たままを言ったところで、誰も信じんじゃろ。ワシがボケた年寄り扱いされるだけじゃ」


大きくため息をつくネム爺。「なんかもっともらしい嘘を考えねばのぅ」などとブツブツ言いながら頭を抱えている。


「爺さん、それよりもこっちだ」


助け出したハンターの前にしゃがんで、目線を合わせるまどか。


「知ってること、全部話してくれる?もし嫌だって言うなら、ウチのメイド達に頭弄ってもらうけど」


ハンターは、自分達が手も足も出なかった一本角を 跡形もなく消し去ったまどかに恐怖した。

出来ることと言えば、平身低頭の命乞いと、洗いざらいぶちまける事しか無かった。

牛の獣人はと言えば、自分以外の獣人と初めて話す機会を得たらっくにしげしげと見つめられ、滝のような冷や汗を流していたが、にへっという笑顔に緊張は和らぎ、会話を繰り返すと心を開いたようだ。今は二人で遊んでいる。


ハンターの話をまとめると、依頼主の顔は見た事が無いらしい。依頼内容と前払いの支度金が届き、捕獲出来た場合、指定の特殊な檻に入れれば仕事は終わり。後日残りの報奨金が届くのだ。


「今回の件が片付けば、ハンター総出で大仕事をするはずだったんだ。まさかここで躓いちまうとは……」


「大仕事?」


「あぁ、いつもと違うルートで舞い込んだ仕事だ。依頼主は国の機関の責任者だと言った」


「うーん……ハンターの仕事の裏を探ろうと思ったけど、別口か……だが国が関わってるのか。こちらも調べる必要があるな」


「お嬢、其奴をギルドに預けんか。受け渡しの現場から、依頼主とやらを探って見よう。お前さん達はその別口を探ってくれんか」


ネム爺の眼が、老獪な冒険者のそれになっている。まどかは提案を受け、獣人の保護と背後の捜査をギルドに任せる事にした。


「んで?その別口の依頼内容は?」


「人の姿をした鋼のゴーレムの捕獲だ」


「!!」


まどかは一瞬、息が詰まる。この世界に転生する際に、肉体の再構築がなされ、人とトラックが融合したのがまどかである。こちらの世界では、ゴーレムの亜人種という扱いだ。だがこの事実は誰にも語った覚えは無く、知っているのは自分と輪廻の女神だけであるはずだ。


「そ、そのゴーレムって」


「あぁ、依頼主の機関が、独自に研究しているらしい。俺も詳しい話は聞かなかったが、研究途中の実験体が逃げ出したそうだ。そいつを内密に捕獲して欲しいと。世間にバレちゃまずい研究だったのかもな」


「そうか」

(私を狙っている訳では無いのか。だが私の正体を知れば……確実に狙って来るよな……いっその事囮になって……いや、悪手だな。逃げ出したゴーレムってのも、暴れたら面倒だし……クソっ!なんでこの世界はこんなに厄介なんだよ)


「んっあぁもう、超めんどくせぇ。一先ずギルドに戻ろう。ゴーレムについての情報があるかもしんないし、私も一度考えをまとめたい。動くのはそれからだ」


かくして一行は、ギルドに向かった。未だブツブツと報告する内容を考えていたネム爺が開き直った頃、ギルドの玄関に到着したのだった。

次回投稿は、4日の予定です。

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