一本角 1
まどかが戦況を見つつ、メグミが茨の檻で囲い込みをかける。だが角で引っ掛け、或いは噛み破り、なかなか上手くいかない。
遠距離の魔術やメグミの弓は躱され、仮に命中しても、それ程のダメージにはなっていない様である。
「なるほど厄介だな。デカいのに俊敏、防御力も高いか」
らっくは撹乱するように動き回り、爪による攻撃でヒットアンドアウェイを繰り返している。チェリーは大鎌の飛ぶ斬撃で牽制し、隙を見てコバルトが鉄球を叩き込む!
「ブモォォォッ!!」
コバルトの鉄球に付いた鎖の環が、しゃくり上げた角先に引っかかった!コバルトは反動で跳ね上げられるが、武器を手放し、宙で翼を展開する事で落下を防いだ。
「コバルト、迂闊ですよ」
「油断しました、チェリー」
「バルォォォッ!!」
まるでハンマー投げのように、首を振り角を回し、たっぷりの遠心力を乗せて鉄球を投げ返す一本角。御丁寧に投げた後の雄叫び付きである。
コバルトは正面から受け、二十メートル程飛ばされて止まった。空中でなかったならば、相当の破壊力であっただろう。
「なるほどな。偶然じゃ無いってことか」
「お嬢、どういう意味じゃ?」
リーダーと獣人を保護し、戻ってきたネム爺が尋ねる。
「かなりの知能だよ。アレは戦い方を知ってる。戦術と言えばいいか、駆け引きが巧い。見た目は魔獣だが、中身は歴戦の冒険者か、人馬一体の騎士のようだ」
それを聞き、ハンターに混じってスキルを使っていた獣人が、口を開く。
「そ、そういえば、いや、でも、そんなこと……」
「はっきり言うっす!」
「ひぃ!わ、私がスキルを使っていた時、違和感があったんです」
「違和感?」
「あ、はい、なんというか、魔獣と言うよりは寧ろ、ど、同族っぽいと言いますか……いや、同族では無いのは確かなのですが、その……」
「人の気配、か?」
「は、はい、なぜそれを」
まどかには心当たりがあった。帝都を揺るがした事件の首謀者が、最後にとった行動……人でありながら、魔物の血を体内に取り込み、自らを魔人と化した男……
「魔人化実験……」
ふと手首に結んだ飾り紐を見る。民を守る騎士として、魔人を倒した友を思う。
「ゴルメス、お前の憂いは断ってやらないとな」
まどかはすっと歩み出る。
「ジョーカー、ここを頼む」
「かしこまりました」
歩みは次第に早くなり、その一歩毎に赤いオーラが迸る。
「炎陣、フルスロットル!!」
赤い帯と爆風を残し、遅れて衝突音が届く!帯の先には、炎を纏った拳を 一本角の横腹に突き立てたまどかの姿があった。
「グモォォォォッ!」
一本角はこの日初めて、横転した。この衝撃を与えたまどかを 倒すべき敵と判断し、跳ねる様に起き上がると、まどかに正対した。
(うむ。コイツがもし元人だとして、自ら力を求めたのか、それとも実験の被害者か……後者だとして、正気に戻す方法があるのか?戻れぬのなら、いっその事……)
「輪廻の環に戻してやることしか出来ないのか……ハンス!」
「承知」
一気に飛び出したハンスは、駆けながら手首のギミックをずらす。
「吸魔の糸!」
それはコクシン島の錬金術師が、今は屋敷の留守を預かっているもう一人の仲間、サキュバスのマリアからヒントを得て作った魔道具。
糸を絡め、魔物の動きを止めてマナを吸収し、人工的に魔晶石を作り出す。その魔道具を武器に応用し、ハンスの義手に仕込んだ物である。
貯められた魔晶石は、ハンスの魔導砲のエネルギー源となるのだ。
次回投稿は、2日の予定です




