ギルドの目覚め 3
沼地にこだまする幼女の声。
「わぁ!お魚いっぱいだにぃ!」
「私も、久しぶりに釣り三昧だ!」
「「あは、あはは……」」
言わずもがな、らっくの声である。
地元冒険者は、人喰いの怪魚、アリゲニアの群生する沼へ、討伐に来たつもりである。体長三メートル以上、ワニのような獰猛な口で、水中から獲物に噛み付き、引きずり込んで飲み込む。
人間ならば、最初のひと噛みで致命傷となり、水牛さえも仕留める。水中で身体を捻るように泳ぎ、骨ごと噛みちぎるのだ。
そんな魔物が群れを成す沼の畔で、まどかは今、収納に余っていた魔獣肉をエサに、釣りを楽しんでいる。
「なぜこうなるんだ?」
「俺に聞くな」
地元組は、まどかに、
「エサが足りなくなった。そこいらに、なんか居ない?」
と言われ、自分達でも倒せる低ランクの魔物を狩り、まどかのもとへ運んでいる最中だ。
事の発端は、らっくの一言だった。
「らっく強いんだにぃ!たっちゃんに凄いとこ見せたいにぃ!」
「そっかそっか。んじゃ、らっくが魔物、仕留めてみるか?」
「やるにぃ!たっちゃん見てるにぃ!」
地元組に魔物の事を聞き、まどかは作戦を立てる。ざっくり言うと、エサをチラつかせて、魔物が飛び出したところを らっくが仕留めるという段取りである。
念の為、いつでもフォロー出来るようにまどかも身構えていた。だが、
「しゃあーっっ!!」
「ザクッ!スパン!」
らっくは爪の一撃でアリゲニアを麻痺させ、もう一撃で仕留めた!
「ラキ様に、急所の探し方を教わったにぃ。なんとなく分かるようになったにぃ!」
「なるほど。まるで活け締めだな……らっく、凄いぞ!」
褒められてまた仕留める。また褒める。仕留める。褒める……おかげでまどかは釣りに専念し、釣り上げた魔物をらっくが仕留めるというのを繰り返していた。
「らっく、そろそろ休憩しよう」
まどかは、らっくが仕留めたアリゲニアを捌く。身は白身で弾力があり、毒は無さそうだ。薄くスライスし、収納から出した醤油につけて食べてみる。
「もむもむ……うーん、鯛とかヒラメって言うより、フグに近いかな。美味い」
らっくにもあーんしてやり、二人で食べている所に地元組が帰って来た。
「な、何してるんですか?」
「あぁ、お疲れ!こっち来て休んで。ご飯にしよう」
鹿のような魔獣をどさりと落とし、膝から崩れる地元組。我に返り、進められるまま近くの岩に腰をおろす。
「アリゲニアを食べるんですか?」
「ん?地元じゃ食べないの?」
「えーっと、今まで食べようと思った人が居ないと言いますか……」
「毒は無さそうだし、意外といけるよ」
会話をしながらも、まどかは薄造りと唐揚げに仕立てていく。
「よし、出来た。あぁ、そっちの魔獣、解体するから、その間に食べなよ」
地元組は、恐る恐る唐揚げに手を出す。
「お、美味い」
「なんだこれ!ふわふわだ。美味いぞ!止まらん」
次から次へと手を伸ばす地元冒険者。生で食べるのには抵抗があるのか、薄造りには手を出さないが、唐揚げは口に入れたらすぐに次を取っている。あまりのペースに、
「ふしゃーっ!」
と、らっくに威嚇された。爪を出し身構えるらっく。
「おいこら、らっく、足りなかったら作ってやるから。ほら、爪引っ込めて。そんな睨まない」
「らっくが狙ってたヤツにぃ!一番大きなヤツ取ったにぃ!」
「わかったから。もっとデカいの作るから、な?」
「仕方ないにぃ」
戦慄を覚えながらも、手に持った唐揚げを離さない冒険者。意外と大物なのか、ただの食い意地なのか……
次回投稿は、28日の予定です。




