人として 4
「みんな、聞け。俺たちゃあ、なんだ?」
「なんだって、冒険者に決まってるじゃねぇかよ」
「んじゃあよ、冒険者ってのは、なんだ?」
ギルマスの問いかけに、冒険者達は答える。
「依頼を受けて、魔物を狩ったり、人々を守ったり」
「探索したり、調査したり」
「ギルドの為、仲間の為、人々の為に仕事をする」
「いい答えだ。も一度聞く、俺たちゃあホントに冒険者か?」
「当たり前じゃねぇかよ!ギルマス、からかってんのか?」
「よくわかった。今から言う話は、本物の冒険者に対する依頼だ!冒険者の矜恃を取り戻す為のな」
ザワつくホール。いつも何を考えているかわからない、狸とも呼ばれるギルマスが、今に限っては真剣な表情である。
「俺は腹を括った。ハンターの連中がのさばり、俺たちゃあ今細々と生きてる。魔物の被害を防ぐ為だと連中は言うが、見てみろ!被害は増える一方じゃねぇかよ!
連中の仕事には、裏があるように思えてならねぇ。その裏の顔、背後にいる奴ら、俺たちで調べてみようと思う」
「ギルマス、そりゃ無茶だぜ」
「無茶は承知だ。だが誰かがやらなきゃなんねぇ。このままじゃギルドは崩壊だ」
「ヤケになったのか?」
「ご乱心ってヤツだろう」
「黙らんかっ!」
一人の冒険者が、話を遮る。その顔に刻まれるのは傷か皺か、乾涸びた老人の見た目とは裏腹に、眼光鋭く他の冒険者を睨む。
「な、なんだよネム爺。いつも日向ぼっこしてるくせに」
ネム爺と呼ばれる小男、かつて斥候として名を馳せた、ギルド切っての隠遁術師である。
「やっとやる気になったようじゃな。待ちくたびれたわい。」
「爺に何ができ……あれ、どこ行った?」
辺りを見回す冒険者。突如影から当身を受け、数人がその場に倒れる。
「全く、そんなんじゃから、いつまで経っても荷物運びしか仕事が無いんじゃよ。もっと技を磨け、神経を研ぎ澄ませボンクラども」
「面白い爺さんだな」
ネム爺は戦慄を覚えた。まさか自分が一切の気配を察知出来ず、背後に立たれるなど思ってもいなかった。ネム爺は姿を消すと同時に、背後に礫を投げる!
「危ないよ」
再び姿を現したネム爺の前に、しゃがんで目線を合わせ、微笑む少女。まどかである。
「後ろに立ったのは謝るよ。でも、こんなの投げたら危ないでしょ」
そう言ってまどかは、手に持った礫をネム爺に返した。まるで園児に注意する保育士のように。
「まどかお嬢様、こちらにいらしたのですか」
「もう、まどか、勝手に行かないでよ。らっくが心配するでしょ?」
「ん?らっくは匂いでわかるにぃ」
「やれやれっす」
そこに現れる一行。またもやネム爺は察知出来なかった。
「ふむ。耄碌したわい……」
「あぁ、ごめんごめん。それよりハンス、この爺さん、ハンスと同じくらい強いよ」
纏う雰囲気は、間違いなく強者のそれであるのに、一見隙だらけの小娘と、談笑する仲間達。その一団を見ながら、フラフラと椅子に座り込むネム爺。
「爺さん、歳のせいじゃねぇよ。そのお嬢、ランクB冒険者だ」
ギルマスがネム爺の肩をポンと叩く。
「ランクBじゃと?馬鹿を言うな。ワシには人を超えた化け物に見えるぞ。Bなどとうに超えとる」
「そのお嬢達が、周辺の魔物を討伐してくれると言った。もう一つ、自分達でギルドを守るのが、冒険者だろうってな」
「そうとも。ギルドと言えば家族じゃ。守るのは当然よのぅ」
「聞いたかボンクラども!腹を括るか、ギルドを出て行くか、選びやがれ!」
次回投稿は、25日の予定です。




