人として 3
ギルマスはドカりとソファに座り、腕を組んでまどかを睨む。どうやら開き直る気のようだ。
「普通に依頼を出せばいいだろう。なぜ回りくどい事をした?」
「依頼にすりゃ、俺に責任が回って来る。いや、それ自体はどうって事は無い。俺にも覚悟はあるからな。だがな、俺の首が飛べば、コイツらはどうなる?明日の飯にも窮するようになり、ハンターに成り下がって使い捨ての囮にされるか、野垂れ死にしかねぇ。コイツらを守れるのは、俺しか居ねぇんだ」
「国内には、他にもギルドはあるんだろ?応援を呼ぶとか、出来ないの?」
「出来てりゃやってるさ。どこも似たようなもんだ。細々と採取や探索、雑用をこなしながら食い繋いでいる」
まどかはホールを見回す。最初は気にしなかったが、このギルドには高ランクはおろか、中堅も居ない。腕におぼえのある者は、皆稼ぎのいいハンターに鞍替えしたのだろう。
「知ってる事を全部話して。やるかやらないかはそれから決めるから」
ギルマスは目を閉じ、大きなため息をつくと、語り出した。
「最初はギルドへの依頼だった。依頼主は、国の重要な組織の人間であり、名を証す事は出来ないと。依頼内容は、キラークイーンの捕獲」
キラークイーンとは、キラービーの亜種、所謂女王蜂である。単体での脅威度は低いが、群れで生息しており、戦闘状態になると、周囲から他の群れを呼び寄せる力がある。
「依頼主は、キラークイーンの生態を研究し、国民への被害を無くす為だと言った。事実、繁殖期には多くの犠牲者が出ていて、常に討伐依頼も出している魔物だった。
多少の怪我人は出たが、依頼は達成。報酬も相場より割高だった。まぁ、そこまでは良かったんだが」
「なんだ?」
「キラービーの被害は未だに多い。大方、研究とやらが上手くいかなかったんだろうぜ。依頼主とも連絡する手段もねぇし、依頼は既に達成して報酬も貰った。ギルドとしちゃあ問題ねぇんだが、どうもしっくり来ねぇ」
「なるほどな」
「それからしばらくして、冒険者がギルドから抜ける事が相次いだ。ウチ以外のギルドでもな。奇妙に思っていたら、ある日酒場で、ウチの若いヤツが元冒険者とばったり出会した。そこで聞き出したのがハンターの話よ」
「ほう。なんとなく読めてきた」
「雇い主ってのが、最初の依頼主と同じ事を言ったらしい。被害を無くす研究だとな。違ったのは、ひっきりなしに仕事が来て、依頼される魔物が、毎回違うって事だ。報酬はギルドの相場の二倍」
「あんたの考えは?」
「確証はねぇんだが、魔物の使い道が、研究以外の何か……じゃねぇかと思ってる。なんだと聞かれたら返答に困るが、現状、魔物の被害は前より増えてる。ハンター共は、目当ての魔物以外には見向きもしねぇ。今残ってる冒険者では、討伐は難しい。打つ手なしだ」
「わかった。周辺の魔物の討伐くらいはする。だが、ハンターの件には、首を突っ込むのはやめておこう。ギルドの危機だと言うなら、まずは自分達でなんとかしなよ。
あんたは冒険者達を守ると言った。しかしな、冒険者なら、自分達でギルドを守りたいって思ってるんじゃない?腕力だけじゃないだろ、冒険者のスキルは。皆が持てる技能をフルに使えば、やり方次第でどうにでも出来る筈だろ」
「……参ったな。小娘に諭されるとは……やってやろうじゃねぇか!その代わり、魔物の方は頼んだぜ」
「あぁ」
次回投稿は、24日の予定です。




