秘密 4(夢の中のらっく、大好き)
(らっくはずっと覚えてる。たっちゃんが、らっくとお話してくれた時が二回だけあったの。でもその二回は、らっくの胸が、幸せでいっぱいになるくらいの思い出なの)
(最初は、らっくのお腹が、すごく痛くなった時。たっちゃんは、急いで帰ってきてくれたの)
『しのぶ!らっくは!』
『あぁ、たっちゃん。朝からあまり元気が無くて、ミルクもちょっとしか飲まなかった。仕事中だとは思ったけど、電話してゴメン』
『病院に行く!しのぶ、伝票頼む』
『わかった。私の車使って!』
『助かる』
(それからずっと、病院に着くまで、たっちゃんは話しかけてくれたんだよ)
『らっく、どっか痛いのか?大丈夫だ。すぐ治してやる。頑張れよー……よしよし』
(たっちゃん、らっく、お腹痛いの)
『寒くないか?らっく、もう少しだからな』
(たっちゃんの大きな手……あったかい……なんか、安心する……)
『おい、先生!』
『ひゃ、ひゃい』
『らっくが元気ない。治してくれ』
『ご、ご予約は……』
『急患だ。早く!今すぐ!』
『わ、わ、わか、わかりました、こちらへ』
『らっく、頑張れ。すぐ治るぞ』
『……ふむふむ……なるほど……この子はどこで買われました?』
『公園で弱ってたのを近所のガキ共が見つけて、ウチで飼うことになった』
『なるほど。これは、寄生虫ですね。地猫……野良ちゃんには多くて、子猫のうちは抵抗力も弱く、重症化する場合もあるんですよ。お薬出しときますね』
『治るんだな?』
『大丈夫です。まぁ出来れば飼われる前に、一度検診に来て頂いていたら、もう少し早く対処出来てたんですがねぇ』
『そ、そうか。すまん』
『お薬が無くなったら、また来てください。今度はご予約をされてから……』
『あぁ、わかった』
(お家に帰るまで、たっちゃんはずっと謝ってた。でもね、違うの。たっちゃんが引き取ってくれなかったら、らっくはもう、とっくにお星様になってたと思うよ)
『あ、帰ってきた』
(お家に帰ったら、しのぶさんが待ってたよ)
『たっちゃん!らっく、どうだった?』
『あぁ、大丈夫だ』
『はぁ……良かった、ホッとした。ねぇ、もしかしてたっちゃん、自分の事責めてる?らっくが病気になったのは俺のせいだぁ!なんて』
『うっ!』
『もう……変わらないね、そういうとこ。あんまり気にしちゃダメだよ。明日は休みなんだし、家でゆっくり看病でもすれば?んじゃ、私帰るね。晩御飯作っといたから、食べてね。』
『あ、あぁ、すまんな』
(その時ちょっとだけ思った。たっちゃんがパパで、しのぶさんがらっくのママだったらいいなぁって)
(もう一つは、らっくが迷子になった時。遊んでるうちに、どこだがわからなくなって、いっぱい鳴いたの。そしたら知らない人にどこかへ連れていかれて、首輪を見て、お巡りさんがたっちゃんを呼んでくれたの。
たっちゃん、いっぱいいっぱい怒った。らっくのこと、嫌いになっちゃったと思った。たっちゃん、また謝ってた。らっく、悪い子?)
『らっく、帰るぞ』
(でも、それからずっと、お家に帰ってもずっと、寝るまでたっちゃんは、らっくを抱っこしたまま離さなかった。暖かくて、優しくて、お日様みたいで……)
『お前は、家族だ』
(一言、寝る前に一言だけ、そう言ったの。なんでかわからないけど、その瞬間らっくの中から、大好きが溢れたの。
その時から思ってる。ずっとたっちゃんと一緒にいたい。スリスリしたい。叶うなら、人間になって、いっぱいお話したいって)
次回投稿は、18日の予定です。




