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秘密 3(夢の中のらっく、思い出)



『にぃ』


『あら、らっくちゃん、どうしたのー?お腹すいたのかなぁ?』


事務の女性しのぶ(年齢非公開)が、ミルクを差し出すと、らっくは嬉しそうに鳴いた。

ここはとある運送会社。辰巳の職場である。


『それにしても、たっちゃんの面倒見の良さは人間だけじゃないのね……らっく、お前いい人に拾われたわね』


『にぃ、にぃ!』


『そうかいそうかい。お前もそう思うかい。たっちゃんも独り身になって、寂しかったんかね?あの人がアイドルなんかに熱上げて無きゃ、私もやぶさかじゃないんだけどねぇ』


しのぶさん(おばちゃんじゃないよ、お姉さんと呼べ)は、密かに辰巳に想いを寄せているらしい。


『しのぶさん、ただいま』


そこに若いドライバーが帰ってきた。


『はい、お帰り。事故、トラブル、無かったかい?』


『あぁはい、問題無いですよ。さぁて、ちゃっちゃと伝票やって、パチンコでも行くか!おっと、その前に……』


若いドライバーは、らっくの頭を撫でる。


『らっく、俺にラッキーを分けてくれよ。昨日二万やられたんだよぉ……今日はリベンジだ』


『あはは!らっくの頭を撫でたって、ご利益なんか無いよ。らっくは、ラッキーのらっくじゃ無くて、トラックのらっくなんだから。負けるのが嫌なら、パチンコなんかやんなきゃいいのに』


『それは知ってますけど、物は試しってね。らっく、勝ったら美味しいミルク、買ってやっからな!』


『にぃ』


らっくは思っていた。


(ここの人はみんな、いっぱい話しかけてくれる。でも、たっちゃんはお話してくれない。ごはんはくれるけど、もっとお話したいなぁ……いっぱいヨシヨシして欲しいなぁ……たっちゃんは、らっくのこと、好きじゃないのかな……寂しくないけど、少し寂しい……)


『ただいま』


(あ!たっちゃんだ!)


『お帰り、たっちゃん。ゴメンね、代打で走ってもらって。梅さんぎっくり腰だって』


『あぁ』


『辰巳さん、お疲れ様っす。』


『お疲れ』


『たっちゃんはホント、無愛想だねぇ。そんなんじゃ、アイドルさんにも怖がられるよ』


『ほっとけ!しのぶ、いつもらっくの世話、すまねぇな』


『構わないわよ。長い付き合いじゃない』


『あぁ』


(たっちゃんは、しのぶさんとはお話するの?らっくは?らっくもお話したい)


『辰巳さん、しのぶさんとは結構話すんすね?』


『ん?違うのよ。たっちゃんは口下手だから、自分から話さないだけ。こっちから話しかければ、受け応えくらいはするわよ。ただ……ほら、あんな感じだから、みんな話しかけ辛いじゃない?だから余計にね』


(そっか、らっくがお話すれば、たっちゃんもお話するのか……でもらっく、喋れない……)


『へぇ、しのぶさん、辰巳さんの事、詳しいっすね』


『な、何よ、もう仕事終わったんでしょ!早く帰んな!』


『へいへい』




辰巳は伝票の整理をしている。らっくは、辰巳に甘えようと、膝によじ登った。


『ん?……ふん』


らっくはスリスリと身体を擦り付け、膝の上で丸くなる。辰巳はただ、されるがままで伝票整理の手を止めない。


(撫でて欲しいなぁ。お仕事の邪魔して怒ったかな?)


辰巳は伝票整理を終えると、ようやく空いた手でらっくの頭をぽふぽふすると、


『んじゃ、帰る。お疲れ』


と、らっくを抱えて家路についた。

次回投稿は、17日の予定です。

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