プロローグ
祝!新連載!!
「おっさん」シリーズの第三弾です。
前作を読んでいただきたいた方も、勿論お初の方も
楽しんで頂けたら幸いです。
書きかけではありますが、外伝ともリンク致します。
非常事態宣言の中、暇つぶしの一助になれば……と思います。
警報の鳴り響く室内。
壁は分厚い金属で出来ていて、およそ人の手ではヒビすら入らないだろう。
廊下のあちこちには、兵士風の男達や、資料を抱え走り回る者がいる。
「培養匣を破壊するなんて……」
「探せ!アレが野に放たれる前に、何としても探し出せ!最悪、始末しても構わん!」
「……始末、か……出来るのならばな……」
ここはどうやら、何かの研究施設らしい。しかもその研究というのが、焦る人々から、まともなものでは無い事が伺える。
研究員が呆然と見ている培養匣に【MGC-00】と書いてある。棺を立てたようなその匣は、何本もの管が付いており、匣が砕かれた際に飛び散ったであろう液体が、辺りを浸している。
およそ科学という概念すらないこの世界において、この施設は異様と言えるだろう。
この世界の最先端技術は、科学技術では無く、魔術である。そしてこの施設も、魔導研究の最先端であった。否、異端と言うべきかもしれない。
現に破壊された培養匣には、数多の魔法陣が書かれてあり、匣の中に居たモノに、様々な術を施していた。
「こ、国王陛下に、報告すべきでは無いのか?」
「ならん!せっかく他の部所に先んじて、完成間近なのだ!知られてはならん!他の部所にも、国王陛下にもだ!……警報を切れ。やむを得ん、直ちに施設を隔離する。」
「わかりました。では速やかに導師達の避難を……」
「必要ない」
「しかし!」
「私は直ちにと言ったぞ」
「……くっ、わかりました……隔壁閉鎖。潜行」
施設は丸ごと地中へと沈む。まるで底なし沼のように、音もなく全てを呑み込んでいった。
「ラキ様ー!おっきい壁だにぃ!」
「あぁ。ようやくルシウス王国だ。」
旅の二人組みが、国境の関所にやって来た。
一人はまだ子供のようだ。スンスンと匂いを嗅ぎながら、忙しなく周囲を見ている。髪の間から獣の耳がピンと立ち、口元から長めの八重歯が覗く。長い尾を ベルトのように腰に巻き付け、時折ふにゃりと揺れている。赤紫の胸当てとスカートが、グラデーションが掛かって輝き、動く度に色が変わって見えた。
もう一人、ラキ様と呼ばれた男は金髪碧眼、漆黒の軽鎧に緋色の外套、腰には剣……の代わりに木の棒を提げていた。
「それにしても、長い待機列だな。二時間というところか……」
入国を待つ者が、壁に沿って並んでいる。二人も並ぶと、列の様子を伺っていた。
「ふむ。確かに噂通り、獣人の類いも多いな。周りの者も、それを不思議に思っている様子も無いか……らっく、ここならお前の主人とやらの情報も、何かしら掴めるかもしれんな」
「そうかにぃ?早く会いたいにぃ!」
それからきっちり二時間後、二人はようやく入国の手続きをする。
「私の名はラキュオス、冒険者をしている。旅の途中だ。コイツは連れのらっく、これがギルドカードだ」
「ふむふむなるほど……カードも本物のようだな。まぁ、武器も所持して無いようだし……よろしい。入国を許可する」
門番の男は、カードを石盤に翳し、真贋を確かめると、お尋ね者の手配書と見比べる。手配書に該当する物が無かった為、すんなりと通して貰えた。腰に提げている棒っきれをちらりと見て、ふんっと鼻を鳴らすと、男は既に次の旅人に目を向けていた。
次回投稿は、9日の予定です。