表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラムガーデン  作者: 潮騒 鴎
序章 始点と終点の交わる器
2/28

1:転校生は得てしてトラブルを持ち込む(2/2)

「お前、ほんとに目立つよなあ?」

 錦小太郎は、言いながら豆乳の紙パックを飲み干した。

「こんなに慎ましく生きているのに、なぜ度々衆目に晒されるんだろうな」

「俺みたいに金髪だってならまだしも、な。フェロモンでも出てんじゃねぇ?」

「だったらもっとモテてるはずだろ……!」

 俺は唇を噛みしめる。生まれてこの方、女性に言い寄られたことは一度もない。俺は特別濃いキャラクター性を持つわけではないか、なぜだか不思議と注目を浴びてしまう体質だ。今回の件も例に漏れず、望まない関心を寄せられている。

 小太郎と二人で昼食を食べているだけだが、四方八方かチラチラらと横目の視線を感じて集中出来ない。

「ある種の才能じゃね? 選挙にでも出てみたらどうよ」

「寄せられる関心が、好意的なものばかりならそうするんだがな」

 しかし残念なことに、現実はそうも行かない。すでに俺の悪評は広まっているようで、「転校生を公衆の面前で降った挙げ句、手を上げた極悪非道の男」として悪名が轟いている。

隣のクラスから転入生を見に来た生徒たちが、ついでに俺の姿も確認して去っていく。何度目だろう。

 だんだんおにぎりの味がわからなくなってきた。

「肝心の本人とは、あれっきりか?」

「あれっきりだな」

 倉科琥珀に目をやると、その周囲には人だかりができていた。

 彼女は決して愛想が良いタイプではないが、その話題性と美貌でスターの座に君臨していた。

「……飲み物買ってくる」

 ちょっとした居心地の悪さに席を立つ。

「付き合おうか?」

「いや、いいよ」

 立ち上がろうとする小太郎を制止し、俺は教室を離れた。

 廊下の突き当りに並べられた自販機の前まで来て、小銭が足りないことに気がつくとは露にも思わず。

「水も買えないな……」

 手のひらの上で小銭を広げて数える。何度数えても、六十円は六十円だ。


 このとき俺は、自身の右手首に見覚えのない痣があることに気がついた。


「なんだこれ?」

 左手でなぞるも、痛みはない。手首にめぐり一周入ったその痣は、怪我の跡というよりは入れ墨に見える。こんなものが見つかろうものなら、あっという間に噂の種だ。

どうしたものかと考えあぐねていると、俺の手のひらに百円玉が投げ込まれた。

「お困りのようですね、お助けします」

「うっわ! 気配を消して近づくなよ……!」

「……? 背後を取ったつもりは無かったのですが」

 小銭の主は倉科琥珀だった。彼女が小首を傾げると、肩にかかっていたツインテールがさらりと溢れた。

「誰のせいで俺が困っているか分かってんの?」

「百円すら捻出できない懐の寂しさのせいでは?」

「違うわ!」

「それでは、平凡な男子高校生にジュースを買う余力すら与えない、冷え切った日本経済のせいですか?」

「それは否定しないが」

「お気の毒に」

 彼女は、再び俺の手を握った。ここで乗せられていることに気が付き、俺は咳払いをする。そもそも、今朝こいつに声をかけられなければ――ふと、今朝手を握られた時を思い出す。

「……お前、もしかして俺の手首に何かしたか?」

「はい、旅の準備を施しました」

「だから、何なんだよ旅って!」


「異世界旅行ですよ、世界を救うための」


「異世界、旅行?」

 耳を疑うが、彼女は冗談を言っているようには思えない。表情は真剣そのものだ。

「……とにかくお断りだ」

「なぜですか?」

「異世界だか何だか知らないが、そんなのは行きたい奴と行ってくれ。俺はこの街から離れるわけには行かないんでね」

「他の人間では駄目なのです……陽波類さん、貴方でなければ。学校のことなら、問題ありませんし――」

「妹を置いていけないんだよ」

 俺は彼女の言葉を遮った。

「学校なんてどうでもいい。通ってた方が公的補助が多いから通ってるだけだからな。俺の命は妹のためにある。妹のいる場所が、俺の居場所だ」

 自分が不必要な内情まで話していることに気がついて、口を噤んだ。しかし彼女の顔には影が落ちる。

「それでは、私の生まれた意味が無くなってしまいます」

「え?」

 俯く彼女の呟きは、予鈴にかき消された。

「……午後の授業、始まるぞ」

 俺は彼女から目を逸らし、自販機に小銭を投入した。微動だにしない彼女を尻目に、自販機のボタンを押す。

 あ、この小銭、倉科のものなんだった。

 お礼か謝罪か――どちらを口に出すか迷いながら彼女を見遣ると、廊下の向こうからこちらへ駆けてくる小丸先生の姿が見えた。

「陽波くぅん……!」

 先生は相当焦っている。度々躓きかけながら自販機の前まで来ると、額の汗を拭った。

「どうしたんですか先生、廊下を走ってはいけませんよ?」

 俺もクラスの人間に習って先生を弄ってみる。

「もお! それどころじゃありませんよお! 緊急事態ですー!」

 先生は大きく息を吐いて、呼吸を整える。そして俺に向き直り、告げた。


「陽波くんの妹さんが、学校で倒れて――」


 最後まで聞いていたかどうか自信がない。気がつけば俺の足は階段を駆け下り、玄関から飛び出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ