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グラムガーデン  作者: 潮騒 鴎
1章 永遠に明けない夜の世界
13/28

3:それは、初めて聞く音だった(2/2)


「ああ? なんだテメェ……」

 男のブーツには複雑な模様が青く浮き出ており、小さくスパーク音を立てている。魔法、だろうか。男達は、揃ってこちらを見る。

「やめろって言ったんだ」

「うるせぇぞ、すっこんでろ」

 数秒の睨み合いがあったが、男達は少年の方に向き直ってしまう。このままでは、暴行が継続されてしまう――


 ……妹がいるんだ。


 か細い声で言った、少年の声が脳裏に響く。食べなければ死んでしまうからと、少年は盗みをやった。しかし少年は、腹を鳴らしていた。何日も食事を摂っていない、真っ青な顔で。


 それでは、盗んだ食べ物はどこへいったのか――そんなことは、火を見るよりも明らかだ。


 その細く小さな体は、守るべきものを抱えている。それをこんな形で、汚されて堪るもんか――!

「無視してんじゃねえぞ!」

 俺は、リストバンドを外し、右腕を前方に突き出す。そして、渾身のエネルギーを込め――指を鳴らした。

 再び振り返った男たちが見たもの。それは、野球ボールほどに肥大化した渦巻く火球、そして迸る火花。


 何を隠そう線香花火である。


 サイズは規格外だが、まぎれもない夏の風物詩だ。火花は牢屋中を跳ね回り、四方八方で爆ぜた。

「次は、本気を出す」

 火球がぼたりと地面に落ち、飛散する。男たちは、それを咄嗟に避けた。俺は転移用の刻印にもエナを込め、燃え上がらせる。そして、その炎を見せつけた。

「な、なんだその刻印は――!」

 当然、はったりだ。この刻印にエナを込めたところで、何も起こりはしない。

「……俺が本気を出したら、このフロアごと吹き飛ぶぞ。いま直ぐ俺の牢屋を開けろ」

 冷汗が背筋を伝う。線香花火は、ちゃんと必殺技に見えただろうか。俺の腕は、震えていないだろうか。男達を精一杯睨みつけ、決して目線を外さない。

男たちの後ろで、人影がゆっくりと動く。

 鉄格子の手前まで来たところで、少年は一気に駆け出した。

「おい、待て!」

「動くな!」

 俺が叫ぶと、男はぴたりと動きを止めた。太った男が狼狽する一方、長身の男は先刻より微動だにしない。

「と、扉を開けろ」

男たちは動かない。

「開けろって!」

「……いいだろう」

 長身の男は、俺と目を合わせたまま扉へゆっくりと近づき、錠を開ける。

「ただし」


「開けるのは、お前をサンドバックにするためだがなァ――!」


 男がにたりと笑う。かと思うと、何かを投げて寄越した。避けはしたが、その「何か」は俺の動きを追尾し、俺の前腕部に突進する。ガチンと音を立て、俺の腕には金属のリングが装着された。それと同時に、転移の刻印から噴き出ていた炎が消える。

「何だ――!?」

 男は、動揺する俺を嘲笑うようにゆっくりと扉を開け、牢の中に入ってくる。

「見慣れねえ刻印だが、エナを封じられちゃあ使えねえよなあ!」

 男は一瞬にして間合いを詰め、俺の腹に膝蹴りを入れる。全身に、痺れるような感覚が伝わった。

「ぐ……ぁッ」

 声が出ない。男のロングブーツに刻まれた紋様は、つま先から膝上まで全てが光り輝き、わずかに放電している。

「仕事の邪魔しやがって! 旅人だろうが何だろうが、関係ねえ!餓鬼を探す手間を増やした罰だ!」

 二打、三打と腹に蹴りこまれる。膝を付き、腹を抱えてうずくまるが、次の一撃は背中に食らう。あまりの痛みに背中を反ると、こめかみに回し蹴りが決まった。俺の体は衝撃を受け止めきれず、牢の床を雑巾のように舐めて動かなくなる。

「体術はからきしかよ……エナを使うまでもないな」

 男は、俺の顔を足蹴にする。もう一人の男も俺の牢に入り、俺の足を力強く蹴った。想像を絶する痛みに、声も出ない。男達は俺を踏みつけ、転がし、蹴り上げた。


 ぱきん、と。体の中から音がした。


 ふと、少年のいた牢に目をやる。空の牢屋。少年は、妹のもとに帰ることが出来ただろうか――

 しかし、よかった。この痛みを味わうのが、彼ではなく、俺で。

 俺は思わず微笑んで、意識を手放した。


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