表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラムガーデン  作者: 潮騒 鴎
1章 永遠に明けない夜の世界
10/28

2:夜空の瞳となびく髪(1/2)


 *


 そこからは、数百メートル置きに街灯があり、どいつもこいつも歌を歌っていた。しかも、みんな揃ってイマイチ上手くない。なんのために人格を持っているのか知らないが、旅人を歓迎するのが役割なのであれば、もう少し練習した方がいい。

 六つ目の街灯の前を通り過ぎると、前方に巨大な門が現れた。門を挟むようにして二本の塔が立っており、左右には防壁が築かれている

「これが関所ってやつか……!」

「最初からこの中に落ちたかったですね」

 文句を言ってはいるが、琥珀の顔は緩んでいる。

「お前も人間らしいところあるんだな……なんか安心したぜ」

「私の愛らしい言動で元気が出たということですね? 対価を要求します」

「やり口が完全に悪徳商法なんだが」

 愛らしさの欠片くらいは見せてほしいものだった。

 防壁の向こうからは、上方へと街明かりが溢れている。夜間試合(ナイター)中の屋外球場を外から眺めると、こんな感じかもしれない。勿論、規模は球場とは比べ物にならないが。

 関所が近づくにつれ、不安がよぎる。

「パスポート的なものが必要かもしれないよな」

「通行料を要求されるかもしれませんね」

「……」

「……」

 俺の不安が伝播したのか、琥珀の表情が曇る。心臓が鼓動のスピードを上げる。関所の前に門番が立っているのを見ると、更に心音は荒ぶった。

「たのもー!」

 門番の顔が視認できる距離まで来たところで、倉科が声を上げる。「倉科さん? それ違くない?」

 心拍数が上がっているにもかかわらず、顔から血の気が引いた。

「な、なんてこった……!」

 門番も青ざめる。門番と俺たち、三人の間に緊張が走った。


 数秒の沈黙の後、緊迫した空気を破ったのは、門番だった。


「フ……フローレンス領へようこそ! いやあ、嬉しいなあ! 南の門番になってから、もう一年になるけど、外から人が来たのは初めてだよ!」

「!?」

 思い切り手を握られ、ブンブンと握手される。

「旅人さんだろう? 皆まで言わなくていいよ、その格好を見ればわかるさ。さあ、身体検査はこっちだよ」

 グイグイ手を引かれる。やけに好意的だ……悪いことではないが。

巨大な門は閉じられているが、扉自体に小さな出入り口がついている。門番がその小さな勝手口を開けると、照明がついたかのようにその場が明るくなる。扉の向こうは、室内なのだろうか。

 導かれるまま、少しかがみながら中に入る。

 二人揃って、目を見開いた。

 眼前には、眩い光の街が広がっていた。街中が輝き、人々の騒めきがある。まだゲートの外側だが、そのゲートすら、テーマパークの入り口であるかのように思えた。

 この光景を前にすれば、百万ドルの夜景も裸足で逃げ出すことだろう。

「綺麗……」

 倉科の口から、ぽろりと単純な感想が溢れる。しかし同感、胸踊る美しさだ。 

「どうですか? ノートスは城から一番遠い都市ですが、それでも人口だけで言えば二番手なんです。なかなか栄えているでしょう?」

 門番が胸を張って話す。

「ここの生まれなのか?」

「え? いえいえ! まさか。僕は生まれも育ちもメディムです」

「はは! そうだよな! メディムだよな!」

「そうですよー、あははっ。冗談がお上手ですね」


 何が面白いのか全く分からない。


「それでは、荷物を拝見しますね」

 身体検査が始まった。荷物だけでなく、体にも触れられる。初めての感覚だ……医者ですらここまでベタベタ触ることはない。この門番、随分若い。中学生のようにも見える。このような歳でも、職を持つ世界なのか。

 門番は荷物の中でも、俺の教科書が気になったようで、「僕には読めない文字ですね」と恥ずかしそうに笑った。

「こんな大きな門、一人で守ってるのか?」

 出来心で聞いてみる。

「ええ、そうですよ。この先には何もありませんからね……どうせ誰も来ません。防壁を拡大するとき、南に門を作るかどうかすら、評議にかけられたほどです」

「へぇ……」

 確かに、この先に何もないのは、俺達も確認済みだった。 ひとしきり触り終えたところで、門番は首を傾げた。

「もしかして、クラウムはお持ちでない……? 旅人さんの場合、入領時にシリアルを控えるルールなのですが」

 クラウムってなんだ……? 持っていて当然のものなのか? 名前からは、どんなものなのか想像もつかない。

「すみません、旅の途中で紛失してしまいまして」

 倉科が上手く対応する。ナイスフォロー! と小さく親指を立てた。

「わあ、それは災難でしたね……不便だったでしょう。持っていないものは仕方がありませんね。これ、旅人証です」

 門番が差し出したのは、木の板だ。何か書かれているようだが、見たことのない文字で全く読めない。首掛け紐のようなものがついている。

「体の、どこか見えるところに掲げて歩いてくださいね。皆さん、親切にしてくれますよ。それでは、良い滞在を!」

 門番が手を振り、送り出してくれる。俺たちは、街のきらめきの方へ、開かれたゲートをくぐった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ