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模索

 入室禁止の札がかけられた資料室の扉をノックした。


 なかから鍵の開く音がした。フォンクは中に入った。大テーブルにところ狭しと資料が広げている若い女が、フォンクをまじまじと見ていた。


 女か、とフォンクは渋い顔をした。理由は単純だ。男の3倍気を遣わねばならないからだ。


(エギューの野郎、わざと女だと言わなかったな)


 固まるフォンクをよそに、ショートカットの女はニッコリ笑って、


「リコルです。今回、フォンクさんに同行させていただきます」と名乗った。


「あなたもレドワ?」とフォンクが訊くと、リコルは少し考えてから「そうです」と答えた。先ほどと変わって、顔を資料に向けたまま、横目だった。


かと思えば、

「フォンクさん、どこへ向かうか、決まったら教えてください。資料室は今日いっぱい使えます」と言って明るい表情を見せる。


 わかんねー女だなと思いながらも、フォンクはすでに行き先の目途はついていた。資料室の物品や書籍も、前回の帰還の空き時間に目を通したものばかりで、新しい証拠物はなさそうだ。


「まずモカシェに行く。現地で調べておきたいことがある」


「モカシェですか?」と、リコルは納得のいかない声で問う。


「モカシェに偽勇者が出たの、知ってるか?」


「いえ、知りません。わたしはその手の情報には疎い方で……」


 そういって頭を掻くリコルに、フォンクは偽勇者事件の概要を説明した。


「2か月ぐらい前の話だよ。俺が知ったのがそうだから、実際はもうちょっと前か。勇者を名乗る男が突然モカシェに現れた。ソイツは自分をテンセイシャとかなんとかいって、女の奴隷を買おうとしていたんだと。よりによってモカシェでな。モカシェは今の人族でもっとも政治に力を入れている国家だ。人権にも超うるさい。当然、令状をもった兵どもがその男を捕えようとするんだけれども、相当てこずったらしい。武器は市販品だし、剣術は出鱈目だけど、魔法が使えて威力もあったそうだ。街中で大捕り物よ。もし何の訓練もなしでそれなら、鍛錬次第で一国の将軍レベルだわな。だとすりゃ、あながち勇者を名乗るのもバカにできない。ただそん時はモカシェの兵士連中でも何とかなって、結局偽勇者は檻の中。テンセイシャは突然変異の戦闘型スキルと見なされ、いまも牢屋でおとなしくしているはずだ」


「その偽者に話を聞きに行くんですか? しゃべりますかね」


「饒舌らしい。訳が分からんことも話すらしいが、勇者の存在の手がかりとして、まだ期待できる。というか、他にないよな。一国の機密資料でこれだもんな」と言ってフォンクは両手を広げ、首をすくめる。 


「過去、戦後数十年にわたってピュイサン軍が勇者の行方、痕跡をしらみつぶしに調べたのに、何も見つからなかったんだぜ。だいたい一緒に魔王を倒したはずのメイゲイルやサージュが、勇者がどこに消えたか知らなかったんだから」


 フォンクはその他にピュイサンでも勇者の資料を探したことがあったが、有力な手掛かりはなかった。


「エギューさんの言うこともわかるけど、今回は自信がないねえ。といって何もしないわけにもいかない。俺は英雄でも勇者でもない。やれることをやるだけだ。とりあえず、モカシェだ」


 フォンクはそう言って、リコルと一緒に資料を片付けた。


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