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打合せ

 翌日の夜。雲のない暗黒の空には無数の星が瞬き、月が明るい。


 人々が寝静まる頃、繁華街の喧騒から離れたよろず屋裏にある宿屋の一室では、異様な空気が張り詰めていた。


 二人用の客室に、フォンク、リコル、ペティフィス、フィデリの4人が会している。ベッドが二台並び、その脇に収納用のキャビネットが置いてある。ほかは小さなテーブルとイスしかない殺風景な部屋だ。


 ペティフィスはベッドに座り、枕を背にもたれて、足を伸ばしている。その傍にフィデリが直立して控えている。フォンクは離れて、窓側の壁に背を預けて立ち、腕を組む。リコルはその隣で窓をチラチラ見遣り、諜報部からの来訪をいまかいまかと待った。


 ペティフィスは数分置きにぽつりぽつりと口を開く。


「本当に来るんだろうね」


「この部屋、安全だろうね」


「その女の子は誰だい」


 やがて独特の緊張感に潰れそうなリコルの願いが通じたか、ドアが小さく軋む音とともに開く。


「お待たせしました」


 そう言って入室した男に4人の視線が集中する。男は気まずくなったのか、自分が落ち着く場所を目で探していた。


 ペティフィスが空いている椅子を指さす。


「そこに座って。で、あなたは?」

「シアンのシグニです。あなたが――」そう言ってシグニは実物のペティフィスに初めて対面し、その姿を目に焼き付けるように見る。

「お会いできて光栄です。あ、私は元ピュイサンの、第二師団の出ですから」


 シグニにとってみれば、シアンに下る以前の立場を考えると、直接話すのも憚られる身分差だった。フォンクは構わずシグニの背中に背負っている筒を指さす。早く用件を済ませろと急かしているのだ。


 軍属だったシグニは、ピュイサンで内勤をしていたフォンクを知っている。なのでこちらには面白くなさそうに憮然としている。「本来なら」フォンクは自分より立場が下の者と直観しているからだ。ピュイサンを辞めた者は、様々な事情でシアンに勤めることを余儀なくされた者も少なくない。


 その間、ペティフィスは感情の抜けた真顔で、視線はシグニを貫通し、焦点は壁に合っていた。


「ご依頼の件です――」とシグニは筒から城の間取り図を取り出し、テーブルに広げる。一同はテーブルの周囲に集まった。


 広げられた紙には城内部の情報がところ狭しと書き込まれている。


「この赤い丸を付けている所が――」と言うシグニを遮り、

「それらしき鍵穴か」とペティフィス。

「はい。計4か所です。4階のドゥーブル将軍の執務室、3階の武器庫、1階の食堂の収納スペースと、魔族資料室の床下収納。その他は条件に合う鍵穴はなく、また他の手段で開錠できます」


 ペティフィスは少し考えてから、

「1階だな。食堂か資料室だと思う」

「武器庫ではなく?」とフォンクが問う。

「武器庫のそれらしき箇所は、何度か開けてみたことがある。それに、あんな所に隠し物はしない。僕でも、僕の祖父でも。……キミ、これは君が全部調べたのかい?」


 シグニは首を横に振り、

「いえ、協力はしましたが、実際城で調べたのは同僚です」と答える。

「素直でよろしい。となれば、低層階のことは僕はよく知らないから、事務官だったフォンク君の出番だな。まあ良い、まずは行ってみようじゃないか」


 ペティフィスはいそいそと身支度を始める。


「では私はこれで」とシグニは筒のケースに間取り図をしまう。

「一緒に行かないんですか?」とリコルが訊く。

「ええ、こんな滅茶苦茶なやり方は、私どもの職務の範疇にはありません。今回もエギュー殿がどうしてもとおっしゃるから参ったのであって……」


 話しながら部屋に入った時の格好に戻ったシグニは、ペコリと頭を下げるとさっさと出て行ってしまった。

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