手配
「はあ、疲れた」
フォンクはソルセに戻ると、そんな言葉ばかり口をついて出ていた。
「来たときも同じこと言ってましたよ」
街の入口でリコルが待っていた。
「待ってたのか? 期限の1日内には間に合ったな」と沈む夕陽を見ながらフォンクが言う。
「どうでした?」
「5日後にピュイサン城に入る。で、頼みがある。城の構造、特に家具家財のディテールまで知っているヤツ、もしくはその情報が欲しい。できれば城から剣ごと盗ってこれるヤツがいいけど、いないよな、そんなの」
リコルは、意味が分からないといわんばかりに額に皺を寄せる。
「雷鳴剣はピュイサンにあるんですか」
「と、ペティフィスは言っている」
「信用できますか」
「これしかない。どのみち、手詰まりさ」とフォンクは左手を顔の横でひらひらさせる。
リコルも腹をくくったように、
「ここから中央まで、速達で1日半かかります。今から連絡所に行っても発送は明日ですから、往復じゃギリギリですよ。私たちもすぐに支度して出ないと……お金足りるのかな」
「同じ文面の手紙をピュイサンのよろず屋にも出そう。俺の指示でやったと言え。住所はーーーいや、俺も連絡所まで行こう」
―――
ピュイサンの王都シャトーのよろず屋では、店主が棚の品物の向きを少し動かしては、納得いかない様子でまた動かしてを繰り返している。
店内に現れたフォンクとリコルを見つけると、店主は作業の手を止め、義足を踏み鳴らして近寄ってきた。
「そう間の空かない再会だったな、フォンク。ここじゃなんだ、店の奥で話そう」
3人はカウンターの奥にある部屋に入った。
店主はしばし記憶を辿るようにリコルを見て、
「この子は?」とフォンクに尋ねる。
「助手、……助手? 何だろう。相棒?」
「なんだそりゃ。ハハハ、面倒だろう、この男は」
「ほんと、そうですよ」とリコルが口をとがらせる。
笑顔でリコルを労わる店主に、フォンクがリコルを指して言う。
「今回コイツがここに来たのは、あくまでイレギュラーだ」
「わかっているさ。人の手配だったな。明日の夜ーーー諜報部で城の情報を持っているヤツを手配しよう。候補は二人いるが、まだどちらが行けるか確定していないんだ。今の任務次第だな」
「よし、明日来れるなら問題ない。どんなやつだ?」
「本人に聞くべきだ」と店主。
「スキルじゃない、人間性の問題だ」
「なるほど、エギューの旦那の言う通りらしいな。明日向かうヤツに、それとなく諭しておこう」
店主はあえて固有名詞を出さず、ペティフィスが同行する旨に理解を示した。フォンクは手紙にペティフィスの名こそ出さなかったが、協力者の存在を匂わせた。頭の働く者なら、それがペティフィスと気づくように。
店を出るとき、店主がリコルを呼び止める。
「お嬢さん。……この男に金を管理させるなよ」
リコルは何か言いかけたが、思い直して懐から金貨の入った皮袋を取り出す。
「大丈夫です。でも、もうちょっと早く言っといてもらいたかったですね」
店主は店内のカウンターに戻りながら、親指を立てた。




