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帰還

「まだ見つからないのか?」


 巨躯の騎士姿の男が、城下を見下ろして言う。

 漆黒の鎧、将軍職の赤いマント、その容貌を覆い隠す鉄仮面。その迫力にあてられるがごとく、隣の小太りな部下がおずおず答える。


「申し訳ございません。急がせておりますので……」


 男の眼下に広がる城下町では、人々がうごめくように賑わっている。遠征に出ていた兵たちが帰ってくるのだ。


—————


 ピュイサン国の王都シャトーに、兵士たちが到着する。凱旋門から城へ向かう大通りに沿って、人々が殺到する。音楽隊が演奏を始めると、どこからともなく紙吹雪が舞った。


 魔王軍討伐時の勝利パレードに端を発するこの光景も、定期イベントになったのは最近のこと。シアン国を仮想敵と見なした頃からだ。兵たちは黒鉄の鎧に身を包んだ精鋭のみ。彼らはブラックメイルと呼ばれ、人族でその名を知らぬ者はいないとまで言われる。つまり、この行進は、シアン国を含めた人族に向けた、ピュイサン国の武勇と威厳を示すパフォーマンスでもある。


 紙吹雪に交じって、ちらちらと粉雪が舞う。季節は冬から春に差し掛かろうとしていた。大柄な兵士たちが地に張り付く紙片と氷晶を踏みつける音が、歓声で掻き消える。


 強さの象徴はいつの世も子供たちのあこがれだ。路地裏に響いてくる歓声に引き寄せられるように、パレードに出遅れた男の子が5、6人、勇壮なブラックメイル隊を一目見ようと抜け道をかけていく。


 ローブを着た一人の男が、すれ違う少年を尻目に、よろず屋の戸を確かめるように開けた。


 店内に客はおらず、棚に商品を並べていたよろず屋の主人が目線を上げる。左脚が義足の主人はひょこひょこ歩き、カウンターから手紙を取り出す。


「フォンク、お前さん宛だ」


 フォンクと呼ばれるローブの男は黙って主人から手紙を受け取ると、その場で封を開けて読んだ。シアン国の上司からだ。


「帰還命令か」


 フォンクはそう言って手紙を店主に返す。


「もうそんな時期か。お前とは仕事がしやすかったが……次はどんな奴が来るのだか」


「中央にもっと、こういう人物を寄こせって頼めば?」


「そう簡単な話でもないのさ。スキルは優秀でも口だけの野郎とか、調査能力はあっても短絡的だったり、いざというとき戦えないとかな。癖があるという意味では、お前もそうだが」


 ぼやく店主を制しながら、フォンクはふっと笑って、


「次が誰なのかは知らんが、中央に行ったらひとこと言っといてやるよ。……明日は早い。迎えが来るらしいから、帰るよ」


「ああ、元気でな」


 少し寂しげな店主に背を向け、フォンクはよろず屋の扉に手をかけた。ドアの隙間から、大通りでの止まない歓声が入り込んでくる。


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