職業魔法少女の物思い
1日で、勢いで書きました。
私の名前は中川 麗華。
年齢、16才。
好きな食べ物はエクレア。
彼氏は、……現在募集中。
どこにでもいるような普通の女子高生だけど、一つだけみんなと違うところがある。
職業、魔法少女。
これがみんなと私の変わっているところ。
〇〇〇
立ち並ぶ高層ビルの数々。
その中の一つが雪崩のように倒壊し、人々は逃げ惑う。
幸いこんな事態に慣れているのだろう、多くの人は死の恐怖に血相を変えつつも、各々が自分の命を守ろうと全力で走っている。
この様子なら誰も下敷きにならない。そう判断したところで私は胸中に申し訳なさを感じてしまう。
「お願い、あの子を助けてください!」
「れいかー。あのお母さん呼んでるよ?」
肩に座っている、猫のような容貌の精霊、スピリィが耳元で警告した。
気持ちが沈み込んでいた私はハッとする。私は今、みんなを守る魔法少女なのだ。
声の聞こえた方を振り返れば、そこには我が子を指差す母親の姿があった。
小さな子どもを、大きな影が包み込んでいる。太陽の光を遮っているのは、赤い目をした八本腕のゴリラ怪獣だ。
怪獣は泣き崩れる子どもを見つけるやいなや、歓喜の雄叫びをあげる。鼓膜が重い響きに振動した。
八本腕のうち、前側についている二本の腕を空高くに振り上げる。
ただでさえ大きな影が、さらに子どもを飲み込む。子どもの命が危ない。
私は魔法を行使し、空中を翔けた。
「ーーーーっ!」
悲痛な叫び声が耳を通り抜けるが、私はそれを無視して手に力を込めた。手が魔法力に光る。
その凶悪な豪腕ですり潰される寸前の子どもの前に、私は踊り出た。
そして、詠唱する。
「ミラクル、バスター!」
たったそれだけの詠唱で、巨大なゴリラ怪人は光の奔流に飲まれて消し飛んだ。
〇〇〇〇
魔法少女。それは、精霊に好かれたものだけがなることのできる。
魔法少女になれるかどうかは、生まれた時にわかる。
「れいかー、おつかれさまー」
「……ありがとう。スピリィ」
労いの言葉をかけてくれるスピリィとは生まれた時からの付き合いだ。スピリィのふわふわの背を撫でてあげると、気持ちよさそうに目をとろんとさせた。
「どうしたの、元気ないよー」
しばらく私はその背を撫でてあげていたけれど、唐突にスピリィはそんなことを言った。気丈に振る舞っていたつもりだったけれど、昔からずっと一緒にいるスピリィにはそれがわかってしまうらしい。
私は観念して悩み事を打ち明けることにした。
「私、みんな、どうして怪獣と戦ってくれないのかなって、思うの」
世界に魔法少女は数十人しかいない。その誰もが強大な力の持ち主で、怪獣なんて、今日の麗華のように一瞬で片付けることができる。
それなのに、市民を怪獣から守ろうと戦っているのは麗華を除き、誰一人としていない。
現状、世界に出現するようになった怪獣たちに唯一対抗できる力を持った存在は魔法少女だけなのに。
「今日だって世界には怪獣に襲われて命を落としている人たちがたくさんいるんだよ?」
私はやりきれない思いを吐露した。が、スピリィは聞いた本人なのに、いつもの無感情な表情を浮かべたままだ。
いや、そもそも精霊が感情を表に出すようなものなのかよくわからないんだけども。
スピリィは思考の処理に時間がかかっているのか、無表情なまましばらく沈黙した。
「ボクはどっちでもいいかなー、れいかといられれば」
やがて、ある程度予想のついていた返答をしてくる。
この子はいつもそうだ。人がどうなる、とか、他の魔法少女をどうする、といった話は、この子にとってどうでもよくて、ただ私といられればいいみたいに考えている。
もともと精霊は気に入った人には力をすごく貸して、その他の人には見向きもしないと研究所の人たちから聞いたので、仕方がないといえば仕方がないんだろうけど。
ただ、それでも私は思わずにはいられない。
「なんとかできないかな」
口から自然にこぼれ出た願いを聞いて、珍しくスピリィは意見を述べた。
「うーん、それなら、他の魔法少女に協力するよういってみたらいいんじゃないかなー」
「それはだめ」
私はスピリィの意見を速攻で否定した。
「えぇえー、だめなのー?」
「だって、他の魔法少女たちはきっとこんなこと、やりたいだなんて思ってないんだもの」
こんなにも人が苦しんでいると言うのに、何もやろうとしない人たちのことを私は疑ってしまっているような気がする。
きっと、いっときだけ一緒に怪獣と戦ってくれたとしても、すぐにめんどくさくなって、元どおりになってしまうに違いない。
私はそう思うのだ。
「もー、麗華は頑固だなぁ」
「が、頑固じゃないもん!」
失礼しちゃう!
「それじゃあどうするのさー」
「それは、そうだけど……」
そう聞き返されて私は口ごもってしまう。
本当は、スピリィの言う通りなのかもしれない。
「私が、もっと頑張るようにする、とか?」
考えた末に、出てくるのはそんな言葉。
それでも、スピリィの様子はいつも通りだった。
「麗華がそうしたいのなら、ボクはそうするよー」
このネコ精霊は、私のすることにどこまでも関心がない。
まるで、現実世界そのものみたいだな、と私は思った。