冒険者登録
ピニキス街の外で俺は、衛兵に注意しつつ森や山で獲物を探していた。自身に向けられる感情を蓄積させる為である。見つけた魔物を威嚇し、逃げ去る所を執拗に追いかけるのだ。最初は怒りの感情が強かったのが、俺が追いかける度に、怒りから恐怖に変わる様はたまらないものであった。
魔物が俺に向ける敵意は、濃厚なものだったのだ。
道で出会った商人と護衛二人も凄まじいものだったが、何せ俺が元々人である以上、その敵意を増幅させるような行為はできなかった。それに、あの人達は悪い人じゃない。まあ俺達を排除しようとはしていたが…
辺りはすっかり暗くなっていた。
ピニキス街は外壁で覆われており、夜には扉が閉まる。
危なかった。もう少し遅れていたら二人も街に入れなかっただろう。
二人は今、ギルドで冒険者の手続きをしているところだと思う。メンバーは二人で登録する。俺が入るとすると色々な問題が起きるだろう!という配慮の上で。
そこで俺は日が昇り、外壁の門が開く頃に、その付近で待機することになっている。フィンズ達と合流する為に。
シキから、ヒビキの存在をギルドの人に説明してみたらどうだ、という意見があったが、フィンズが断固拒否した。
危険が多すぎるとのこと。
確かに危険は多いが、後にまたゾンビパウダーの犠牲者が出るかもしれない。いつまでも放置するわけにはいかないと思う。
その為には俺が強くならなければいけない。俺は赤衣の野郎どもに復習してやるんだ!!
「冒険者のご登録ですね?」
俺とフィンズはギルドとかいう焼き肉屋にいる!早くオークの焼き肉が食いたいぜ!
……っと!その前に冒険者の登録が必要みたいだ。俺は難しいことはわからねえからよ、フィンズに任せてる。
まあなんて広い所だと思う。
人が多い!
酒もあるみたいだ。聞いてみたら、モンスターを討伐したら、報酬の金で、成功祝いっつうことで、盛り上がってるらしい。
あー!俺も依頼成功させて、焼き肉食って酒飲みたいぜ!!
「シキ、登録終わったよ。最初の依頼はリカバ草の採集。期間は1日。明日、ギルドの宿屋で泊まることになってる。じゃ、僕はお手洗いに行ってくるよ!」
お?お?よくわからねえが、とりあえず宿屋で寝ればいいのか。
めちゃくちゃ早口だった。どんだけうんこ行きたかったんだよ!
まあいい。晩飯食いたかったが、食い逃げなんかできねえし、雑草なんかも食ってられねえ!
俺は寝るぜぇ!!!!!!
やい!俺はアムルド。こう見えてもランクBの冒険者だぜ!
依頼の、商人の護衛を行ってたところだ。だがな、危うく失敗するところだったんだ!!
なぜかって?それはな…
とんでもねえ奴らに出くわしたからだ。
毒ナイフでやられちまった!傷口はミネアの治療魔法で治ったが、痺れは収まらねえ。
商人を護衛するつもりが、体が動かねえ間、護衛される身になっちまったぜ。体がまだ痺れてやがる…
俺らは早いうちに、ピニキス街のギルドに報告することになっている!変な奴らが現れたと。今は夜で外壁門が閉まってるだろうが、俺達はランクBだ。許可があれば入れてくれるだろう。
まあこれくらいの痺れならどうってことはない!この辺の魔物なら、対処できる。だが!
なんなんだあいつらは!俺が布巻き野郎に気をとられていたとはいえ、半ズボンの攻撃に対処できなかった!半ズボン…あの身のこなし、ただ者じゃねえ…まるであのレッドウルフを相手にしているような…そんな感じだったぜ!くそがぁ!!
「あの布を巻いた人は、なんなんですかね…?」
「わからないわ。ただ…」
ん!?やいやい!!あの商人、俺のミネアに近づこうってったって、そうはいかねえぞ!
「やい!ミネア!あいつらは魔物だろぉ!?さっさとギルドに報告して、討伐するべきだ!!」
「ええアムルド。その通りよ。でもね、ただの魔物ではないかもしれないわ。治療魔法で苦しむ魔物なんて、まるでアンデットのよう…もしそうだとすれば、退魔士の要請をしなければいけないかも…ね。」
アンデット。
聞いたことがあるぜ。なんでも東の孤島、デスノイズに大量に生息しているらしい。
そのアンデットの中で一番厄介なのが、ゴーストだ。奴らは日の光で消滅はするんだが、憑依能力がある。憑依してる間は日の光は無効で、海の生物や魔物に憑依しながら他の島に上陸。
なんやかんやあって、国々に危険が生まれる程の厄介さらしいぜ!
そこで国々が生み出したのが、退魔士!!!
一人前の退魔士になれば、孤島デスノイズに乗り込み、ゴーストの見張りをするそうだ。奴らの気配を俊敏に察知できないと行えないものだ。
ミネアはその退魔士に依頼を要請するのだろう。
「いくらなんでも大袈裟すぎだろう!ミネア。確かにここにアンデットがいるのは不気味だが、見た目的に、奴はゾンビかスケルトンだろう!日の光があるところに誘き寄せて布をとっちまえばいいんだ!簡単だろ!」
その考えにミネアは頭をかかえる。
「…まあとにかく、ピニキスへ急ぐわよ。」
そう言った時だった。
「そういうわけにはいかないよ」
男とも女とも言えない声が、二人の耳に入るのであった。
疑念、嫌悪、恐怖
俺はゾンビになってから今まで向けられた感情について考えていた。
これらの嫌な感情を欲するようになってきたのだ。俺の心が。むしろ心が人にとっての胃袋なんだろう。
その心が、どんどん黒くなっていくのがわかる。きっと、ゾンビ化の影響なんだろうな。