商人&護衛とひと悶着
ピニキス街道
コウロ街とピニキス街を繋ぐ街道は整備はされていないものの、馬車は人が継続的に通っているので綺麗にはなっていた。ただ、街道の周りには森が広がっており、山賊や魔物がよく出没している。商人や一般人は不満を漏らしていた。
ガラガラガラガラガラガラガラガラ
ヒビキ一行は街道に沿って歩いていると、一台の馬車を見かける。
「あの、すいません ピニキス街はあと、どのくらいで着くかわかりますか?」
フィンズは馬車の運転手である商人に、次の街までの距離を訪ねる。
運転手である商人は3人の姿を見つめると、疑わしい視線で答える。
「え…はい。歩くとなると…三時間ぐらいかかりますかね。それにしても、珍しい格好をしているのですね。特にあちらの方…」
フィンズは普通の旅人の格好だが、シキは上半身が裸で、ただ半ズボンを履いているだけだった。まあ気温は低いわけではないが、今は肌寒い季節である。少し怪しい程度だが、
ヒビキの格好は、全身に布を巻いており、右目だけを覗かせているだけだった。そして木の板を数枚、脇に抱えている。
要するに3人とも、季節感がバラバラなのである。その3人を見て1秒もすれば、判断できる。あ、こいつらやべえな、と。
ヒビキに関しては布を全身に巻いておけば、日の光に晒されても活動できた。だとしても昼間からそんな格好では怪しさMAXである。
商人は3人の姿、特にヒビキの格好を見て怪しんでいた。
それもそのはず。以前ピニキス街では一般人を装っていた魔人が街に忍び込み、大事件を引き起こしていたのである。
よって商人は、3人を見過ごすことはできなかった。
「あの、できればでいいんですけど…その人の布を取ってもらってもいいですかね…?」
商人は恐ろしいながらも、強気で3人に迫る。
「え…布ですか? でも、彼は…怪我をしていて…」
フィンズはしどろもどろになっていた所、馬車の方から苛立った声が上がる。
「やいやいやいやい!!見てればなんだ!っったく!じれってえどころの話じゃねえやい!」
屈強な男が馬車から降りてくる。鉄の鎧を着こなし、背中には槍を抱えている。どうやら商人の護衛のようだ。
「やいやいうるせえな…」
ボソッとシキがぼやく。彼もイライラしていたようだ。それもそのはず。ただ道を聞いただけで、結構な時間、足止めをくらっていたからだ。
フィンズはシキに、聞こえたらどうするんだと、慌てて目線で訴える。
フィンズは商人達とは事を構えたくないようだ。
彼の場合、自分達の怪しさは自覚していた。むしろ道を聞いてしまったことに後悔してるのかもしれない。
そして護衛の男は怒声を放つ。
「やい! お前らどうせ魔物なんだろ!?白状しやがれ!」
「いえ、私達は人間です!冒険者を志してピニキス街へ行く所なのです!そういうことなので、失礼致します。道を教えてくれてありがとうございました。」
フィンズはペコリと頭を下げると、3人、歩を進めようとする。
だが…!
「やいやいやいやいやいやいやいやい!!まだ話は終わってねえ。」
簡単には見逃してもらえないようだ…
「やいやいうるせえんだよ…!」
シキはこめかみに青筋を立てている。もうそろそろタイムリミットは近づいているようだった。
「やい、なんか言ったか?そこの半ズボン」
「やい、やい、やい、やい、やい、やいうるせえんだっつってんだろぉ?俺たちはただ道を聞いただけじゃねえか!!俺達が魔物だと?魔物だったら既に襲ってるんじゃねえのかぁ!? あぁ!?だから白状してるじゃねえか!俺達は人間だって!!おいヒビキも何か言ってやれよ!!ムカついて仕方ねえ!!」
シキは激怒する。いつまでこの茶番に付き合わせるつもりだと言わんばかりに。
「やい…なんだとコラァ…そこの全身布巻き野郎が怪しいってんだよ!完全に魔物じゃねえかよ!俺の目は誤魔化されねえぜ! やい!!」
するとフィンズが間に入る。
「いえ、彼は…全身に火傷を負ってまして…人には見せられないのです…」
いかにも暗い表情をして言う。
そしてヒビキもここぞと言わんばかりに追撃を加える。
[そうなんです 料理を行っていたら 誤って全身に火を浴びてしまいました]
ヒビキは木の板でメッセージを伝える。
だが…!
「全身に火傷を負ってて、なんでピンピンしてんだよ!! お前らコウロ街から来たんだろ!?ここまで何キロあると思ってんだよ!!全身火傷を負っててここまで歩いてきたとでも言うのかよ!? ふざけんのも大概にしろ! やい!!」
最もな反論をされて、もはや3人は成す術無し。
そこに魔法使いであろう綺麗な女性が現れる。
「全身を火傷しているなら、治療してさしあげましょう。それなら、布と取って頂いてもかまいませんね?」
「え…あ…それは…」
「やい! ミネア! わざわざこんな奴ら治療してやる必要なんてねえよ!どのみちこいつらは魔物なんだ!ぶっ倒してやる!」
「いいえアムルド。怪我をしてたり、困っている人がいたら助けるのも冒険者の務め。そうじゃない?」
「いや、それはそうだが…」
そうすると女魔法使いはヒビキの前ににじり寄る。
フィンズは慌てるが、肩をポンと叩かれる。
見ると、ヒビキが頷く。
ヒビキは治療魔法がゾンビである自分にどのように効果があるのか、それを試してみたかった。
「わかりました。ありがとうございます…彼を助けてください。」
すかさずフィンズはシキに耳打ちをする。するとシキはニヤッと笑う。
女魔法使いはヒビキの前に出ると、ヒビキの額に手を当て、魔法の言葉を言う。
「ヒール!」
するとたちまちヒビキの全身が輝く。
しかし、ヒビキの全身は癒されることはなかった。その逆。
「ム…ウォォ…! ウオオオオオオオオ!!」
ヒビキは苦しみ出す。アンデットにとって、治療魔法は毒なのである。
その姿に唖然としている護衛二人の隙をついて、シキ、フィンズはナイフで切りつける。
「なっ!?」
そして3人は逃走する。
護衛二人は追いかけようとするが…
「やい!待てコラァ! って…! 体が動かねえ…?」
護衛二人は戸惑う。
それもそのはず。切りつけられたナイフには、体を痺れさせるという毒があった。
フィンズはもしものときのために、パララ草(飲むと痺れる)の汁をナイフに塗っているものを予め準備していたのである。
護衛の体が痺れているうちに逃げ、ピニキス街へ向かう。
幸先はこれ以上無いくらい悪いと、フィンズは思うのであった。