恐怖の鬼ごっこ
「なんだ? 向こうから何かが来るぞ?あれは…オヤジ!?」
向こうからレッドウルフが全速力で何かから逃げるようにこっちに走ってくる。
「オヤジ!!どうしたんだ!?あのゾンビから逃げてきたのか?」
「グルルゥゥ…」
オヤジのこの表情は初めてだ。何かに怯えているようだ。
フィンズを見る。
すると、フィンズは森の方角を見ている。釣られて俺も同じ方を見てみる。何かがあっちからやってきたようだ。
「アッアッアッアッ」
何かが物凄いスピードで近づいてくる。
その容姿は、顔意外が布で覆われており、その布から覗く表情は、この世のものとは言えないものと言えた。
そのゾンビが俺達二人を認識するや否や、ただでさえヤバい形相をしているにも関わらず、顔を更に歪ませながらスピードを上げてこちらに近づいてくる。
「うわああああああああ!オヤジィィなんとかしてくれぇ俺達喰われちまうううう!」
だがオヤジは俺達を見捨てる如く、全速力でゾンビから逃げるように走り去る。
「お、オヤジ…?オヤジ。オヤジいいいいいいいいい!」
「ああああ!シキ!!早く僕たちも逃げるんだよ!!」
フィンズが必死に叫ぶ。
ああそうだ早く逃げないと。
とにかく俺達はオヤジとは逆の方向へ走る。
オヤジのほうが俺達二人より体積が大きい。
ゾンビの目的は補食だろう。ならばオヤジの方を狙うはずだ。俺達はその間になるべく遠くへ逃げるんだ。ごめん…オヤジ!
そこで俺はゾンビの様子を見るために後ろを振り返る。
「アッ!アアアッ!!アッ!アッ!アッ!」
「うわああああああああアイツ俺達をつけてきやがる!っってか、ダメだぁぁぁ追い付かれる!」
もう俺達とゾンビの距離が2~3メートルしかない。あと何秒後かに喰われるんだ。もう終わりだ。
そしてやがて…肩を捕まれる。後ろを見ると、おぞましく歪んだ表情がそこにあり、俺はそこで意識を閉じた。
ピチョン…
ピチョン…
僕はここで目が覚める。
「ここは…?」
真っ暗で何も見えない。僕は周囲にシキがいないかを探す。
「…うーん…ここは?」
シキも目が覚める。だがどこにいるのかがわからない。何せとても暗くて、周囲が見えない。
そこで僕は思い出す。確か携帯ランタンがあるんだった。
携帯ランタンとは、手のひらサイズのランタンである。ポケットに携帯できるもので、僕は常に持参している。
カチッ
ランタンのスイッチを入れる。スイッチを入れている間は、蝋燭に火がつき、スイッチを切ったら消える。ライターみたいなものである。
ついた明かりで周囲を確認すると、シキがいた。
しかし、シキの後ろに影がある。僕は違和感を覚え、首を傾けて見てみる。
「うわああああああああ!!!!」
シキは釣られて後ろを見る。
「うわああああああああ!!!!」
「ア…ア…」
だけど、よく見るとゾンビは何やら木の板を持っていてそこには、字が書かれていた。
[俺はヒビキ。安心しろよシキ、フィンズ。ごめんな。ーーーーーーーーーーーーーーーーーー]
その板には、これまでのヒビキのいきさつが書かれていた。