冒険者初のお仕事
俺は今、ピニキス街からしばらく歩いた所の山の中でリカバ草の採取をしていた。シキは一足先に行っていた。場所はフィンズから聞いているらしい。
「あった!これだよこれ!」
フィンズはリカバ草を見つけ、俺にそれの特徴を説明してくる。
「葉の先に、少しだけ紫の点が見えるでしょ?少しわかりにくいんだけど、これがリカバ草だよ」
フィンズが言うに、すりつぶして塗り薬として使うと一番効果的らしい。実際に食べたり、粉末として飲んだりして回復という方法もあるが、それだと効力が全身に均等となり、その分効果はいまひとつとなる。
「食べてみる?」
『やめろよ!お前そういうこと言うの』
フィンズは冗談だと言って、笑っている。
こんな性格だったっけ?と思うが、きっと、元々はそういう性格だったんだろうと思う。
フィンズは俺の監視役だったんだからどこかしら遠慮していたんだろう。今までは。
だけどなんかホッとする。本当は警戒しなくちゃいけないんだろうけど、そんなことはどうでもいい。
フィンズは科学組織ジャスミン。通称赤衣から、縁を切るつもりだとのこと。
それに、俺がゾンビ化して以降、赤衣からは一切連絡が来ず、状況報告なども求められていないと言っていた。
通話魔法という高度な魔法が存在するということだが、フィンズ自身が使えるわけではなく、赤衣側から一方的に掛かってきて、今までは連絡をしていたとのこと。
一切音沙汰がないのだ。
だからそれからフィンズは、俺の安全を確保しようとしていたらしい。
なるほどな。
フィンズは強い。
赤衣の襲撃から自分の身は守られるだろう。
俺が直接フィンズをぶん投げたのにも関わらず受け身を取り、冷静に行動していた。本来なら俺が威嚇するだけで魔物や人もまともには動けないはずなのに。
シキはどうだろうか?
まあなんとかなるだろう。何か異常があればとにかく騒ぐからな。
何より声がデカい。耳をすまさずとも、俺は駆けつけられる。
そんなことを考えてるうちに、リカバ草を見つけた。これのことか。掴むと、手のひらがヒリヒリする。
それでも探すのになかなか苦労している。
リカバ草の個数を指定されていないため、なるべく多く集めたいということだが、それでもフィンズと俺のを合わせても八個。
ここにいても仕方ないので、もっと奥へ行ってみよう。
『俺、シキのこと呼んでくるわ』
「わかったー」
俺は周りを見渡すと、いた。
リカバ草を集めていた。黙々と作業を行うシキの背中には、真剣さがあった。何せ、依頼を成功させたら、焼き肉を食べ、酒が飲めると思い込んでるのだから。
俺は心が締め付けられる思いに駆られる。いや、別に依頼が1日1回と決まってるわけじゃない。また依頼を受ければいいんだ。まだ昼を回ったわけじゃかい。
これが終わったら、魔物の討伐を受けよう。
俺は決心して、シキに声をかける。
『シキ、ここじゃあまり取れないから、もっと奥へ行くぞ』
「んお?」
振り返るとそこには、リカバ草をおいしそうに食べているシキの姿があった。
『食ってるうううううう!』
「喋ったあああああああ!」
『なに食ってんのお前!?依頼だよこれ?商品だよ!?なにしてんのお前!?』
「喋れるようになったのか!?変な声だなぁ!ハッハッハ!お!?どこから声出してんだ?」
俺が喋ったとかはどうでもいいんだよ!!ただでさえ見つけにくいものを無駄にすんなよ!
俺が騒ぎ立てると、フィンズが何事かと駆けつけてくる。
そのフィンズは、うわぁ…と言わんばかりの表情をしていた。
「いやあ、腹減ったからよぉ…食っちまったよ。間食だよ、間食。結構うめえぞ!リカバ草!それよりもよ、ヒビキ。お前喋れるようになったのかぁ?」
「………あぁ、何か知らねえけど、喋れるようになった」
「ほー!そっかぁ!すげえなあ!」
もうなんか、力が抜けて説明する気にもならなかった。シキは能天気なところがあるからな。
納得してくれたからいいだろう…
「とにかく、気を取り直して奥の方へいってみようよ」
フィンズがそう言ったとき、
「きゃあああああ!!」
悲鳴が聞こえた。
何事かと思い、声が聞こえた方向へ向かう。
そこには、
腰を抜かした女の子二人の前に、ジャイアント2匹がいた。
ジャイアントの見た目はデカイ蟻
4本の足で立っており、前足の先には、鎌のような鋭い刃が備わっていた。
俺は物陰に隠れ、成り行きを見守る。
俺が出ていった所で、女の子を怖がらせるわけにはいかない。
シキとフィンズがやっつけてくれるだろう。
そう、俺たちの戦いはこれからだ!
リカバ草=薬草
主に塗り薬として使われるもの。
戦闘後に傷に塗れば、徐々に回復する。
冒険者にとっては貴重な存在。
回復薬の原料として使われている。




