真実の記憶
俺は穴の中で、仲間にどうやって布を取ってきてもらうように伝えるか…
それを考えていた。
「リカバ草どこだよぉぉぉ!!」
「うっさいよ!シキ!!すぐに見つかるわけないじゃん!街を出てすぐに見つかるんだったら、依頼なんて出ないよ!もう、ホント…ちょっと頭痛いんだからさぁ…」
よかった。フィンズもいた。
フィンズとは話し合いたいことがある。
腹を割ってね。
思わず自分のお腹を触る。
…そこには背骨しか無かった。
割る腹なんてなかったんだ…
ゾンビ、いや、スケルトン?になってからブラックジョークが上手くなった気がする。
ま、それを伝える口なんて無いんだけどね!
よし、落ち着いてるな俺。
俺は土の中にある小石を真上に投げる。
「フィンズさんよぉ!便秘だからってイライラすんのは良くないぜぇ!!30分くらいかかってたよなぁ!!うんこは5分出なきゃ諦めるのが鉄則よぉ!!」
「朝から下品なこと言わないでよ…もうホント…昨日の話ちゃんと聞いてたよね!?リカバ草の特徴」
「おう!要はこの草と同じものを見つければいいんだよなっ!?」
「そう。だけど似てるものが多いから、注意深く見るんだよ!」
「わぁーってるって!」
ダメだ。気づいてくれない。
俺は大声を出す。
「アーーーーーー!!!」
「お!?ヒビキか!?どこにいんだぁ?」
よし、反応してくれた!
もう一回、小石を真上に投げる。
「お!なんだなんだ、穴空いてるぞフィンズ!!こっち来てみろよ!!」
「う、うん」
気づいてくれたシキに、ジェスチャーで伝える。
ババッバババババババババババババババ
「おい!なんだぁ!?そこに穴空いてたのかぁ!?それで、誤って落ちちまったのかぁ!?ハッハッハッハ!!…って、おい!!お前骨見えてるぞ!!お!?病気か!?フィンズの便秘が移ったか!?」
布だよ布!事情は後で説明するから!!
フィンズ!頼む!伝わってくれ!!
「布だよね?ヒビキ!今持ってくるね」
コクコクコクコクと俺はフィンズに首を上下に動かす。
流石フィンズ!もう絶対離さないからな。
「なんかよくわかんねえけど、俺ぁ先に、リカバ草探してくるからなー!!依頼達成したら、焼き肉と酒だぜ!!!ヒビキにも持っていくからよ、楽しみにしてろよなぁ!!」
そうか。シキがご機嫌な理由がわかった。温かい奴だなシキは…
そうだよな。俺達は冒険者だ。これで食っていくんだ。
これからなんだよな俺達は。
しばらくするとフィンズが布を持って戻ってくる。
「あれ?シキは?」
俺はジェスチャーする。
「ああ、先に行ったんだね」
俺は布を全身に巻いて穴から出る。
ふう。助かった。
「僕達も行こっか。って、ヒビキ?」
俺はすかさず足元の木板をフィンズに渡す
[あの護衛達には俺らの事を秘密にするように言っておいた だから安心してくれ]
「…気づいてたんだね」
俺はコクッと頷く。
「……僕が憎くないの?殺したくないの?」
フィンズが下を見て、小刻みに震えている。
俺は首を横にふる。
「なんで!?出会ったときから僕はヒビキを監視してたんだよ!?盗賊に襲われたよね!?大金を奪われて!!僕、それを見て見ぬふりしてたんだよ!?」
フィンズは泣きながら俺に訴えかける。俺の肩を揺らしながら。
わかってるよ。でも本意ではなかったんだよね。監視に徹底するんだったら、俺を…憎しみと罪悪感を持つように促すはず。
だってそれが
ゾンビ化への効力を
最大限に活かせる方法なんだから
俺は木の板をフィンズに渡す。
[でもいっぱい助けてくれた 逆なんだ 俺はフィンズにお礼とか言えてなかった]
「なん…でだよ…僕は…ゾンビ化なんてさせたくなかった…!命令だったんだ…!!科学組織ジャスミンの…!!!」
俺は諭すように、フィンズの背中を叩く。
うん…!
うん…!!
わかってる。
科学組織ジャスミン。
俺をゾンビ化させた研究所。
赤衣。
俺は今まで吸収してきた感情の力を使って、過去を思い出そうとしていた。
自力では無理だった。
なぜか肝心なときに、モヤモヤが膨らみ、遮るように。
でもいけた。
「いやぁぁぁぁ!!離して!!!ヒビキ…ヒビキ…!!!」
「ねえお母さん?この人達、誰?」
「なんだお前らは!離せ!離せぇぇ!!」
「この子供を実験体とする。」
「とても素直な子だ。さぞ、憎しみと罪悪感を染み込ませることができよう。ククク…」
「生きながらにして、…世を憎み、他を憎み、親を憎む…そして全ての悪事を肯定し、人としての本質をねじ曲げる。それがゾンビパウダーの効力を最も引き出せるのだ。」
「今後が楽しみというものだな。」
「大人しくしろ!」
怒声を放つ赤衣は、ヒビキの両親の頭に手をかざす。両親は力なく項垂る。
母親は戸棚から、五十万ゴルを出すと、力なく、ヒビキに言う。
「ヒビキ…」
「フン!今ここにあるものを失えば憎しみの糧に成ろうと言うもの!消し去ってやろう!」
グシャっ
「お母さん………お母さん?ねえお母さん!ねえってば!!お母さあーーーーーーん!」
「あっあああっ…ああああああああ…」
子供は頭を掻きむしる。執拗に。頭皮が破けるのではないかと思う程に。
「む!子供の様子が…大丈夫なんだろうな?」
「ふむ、壊れたか。催眠をかけておけ。この程度なら問題ない。」
……
「わかったよお母さん。コウロ街だよね?このお金、大事にするから!だから…いつかまた戻ってきてね!」
子供が、自分の母親と話しているであろう目線の先は、満面の笑みを浮かべた赤衣であった。
……
その子供は、笑顔でコウロ街へ出発する。
フィンズ、シキ、オヤジ、ピン
その他にも俺を助けてくれた人達がいる。
ずっと1人だったら俺は…
科学組織ジャスミンの思惑通りだったら…
力の限り、暴れ尽くしていただろう。
心の黒い渦は、拡散して、俺の全身に行き渡る。
俺のこの体は、感情の100%を力に変えられるんだろう。
俺のこの力は、仲間を守る為にあるんだ。
さっさと赤衣野郎共を倒して、冒険の続きといこうか!!
『フィンズ、俺は大丈夫だよ!お前の方が辛かったんじゃないか?ずっと隠してて…』
俺は喋れるようになっていた。だがそれはどうでもいい。
「え?僕が…?そんなことない…僕は…僕は…」
なんか、湿っぽくなってしまった。
まあ俺のせいでもあるんだが…よし!
『とにかく、依頼をさっさとクリアして、シキと3人で不幸自慢でもしよっか!!焼き肉食って酒飲んで!!』
「…え?この依頼での報酬では、高価な物は買えないよ?シキは冗談のつもりで言ったんじゃないの?」
『え?』
「え?」