葛藤
赤衣を逃してしまった。
赤衣の、さっきの行動に対して今さら疑問を持つ。
なぜ、あの3人と接触していたのか。
望んでいたのは、対話なのか、排除なのか。
考えても仕方がない。
あの3人に聞いた方が早いが、俺の話を聞いてくれるだろうか…
!
気がつくと、コウロ街大勢の住人が、こちらを見ている。
その表情は、絶望。
3人も含めて自分達は今から殺されるのだろうと思ってるようだ。
コウロ街の入口から、俺までの距離は約30メートル。
なんとか、コンタクトをとりたいと考えているが、俺の見た目がヤバいことになっているのだ。
全身を巻いていた布は完全に取れ、所々、皮膚…というか表面の肉が取れていて、骨が剥き出しになっている。
ゾンビとスケルトンの、ハーフハーフです。なぁーんて、そんなことを口に出してしまえば、スケートリンクで滑っていろとか言われそうなので思考を切り替える。
コンタクトを取りたい!
そこで俺は、降参の合図としてよく、ある行動をしていた盗賊の事を思い出す。盗賊を追い詰めたときの事だ。今から、それを実行しようと思う。
バッ!
俺は高速で両腕を上げる。
だが…!向こうの皆からは悲鳴。
降参!!敵意無し!
俺はその意思表示をするために全力で両腕を上げ、または下げ、左右交互に腕を上げ下げしてみたが、聞こえるのは悲鳴だけ。
あれは魔王だ!とか言われる始末。
仕方ないから道端の木の表面を剥がし、その裏に文字を書き込む。
[自分は元人間です。どうか怖がらないでください。]
俺は書き込んだ木の表面を、ヒュッと投げる。
住民がまたも悲鳴を上げるが、女魔法使いは、臆することなく、木の板を受けとる。そして、表面の裏の文字を見ていた。
「やいミネア!そんなもの受けとるんじゃねえよ!爆発とかするんじゃねえか!?」
鎧の男、アムルドが警戒する。
「大丈夫よアムルド。あれは昼に会った、布巻きの人と同一人物。それに、敵意を全く感じない。私に任せて頂戴?」
「で、でもよぉ…」
アムルドは抗議するが、言ってもキリがないと諦める。
ミネアは言い出したら絶対に曲げない性格なのだろう。
でも、よし!これで俺は彼女とコンタクトを取れる。
「あなたは元々人間だったのね!?どうしてその姿になったの!?」
距離が結構離れているため、少し大きめに話しかける。
彼女が俺に近づこうとするが、アムルドに止められた。俺が近づいてもダメだろう。
俺は木の表面をまた剥がし、書く。
[さっきの赤衣 そいつらにやられました ゾンビパウダーというものを 飲ませられたのです 彼らは組織ぐるみで動いています]
ミネアに木の表面を投げる。
木の表面を見たミネアは、困惑した表情をする。
気になったアムルドは、メッセージをしばらく見ていると、怒声を放つ。
「やい!さっきの赤い衣は俺らを口止めしようとしてたぜ! てぇことはよ、おめえらはグルだってことじゃねえか!!」
!!!
うーん…口止めしようとしてたのか。
俺はてっきり、赤衣はあの二人に協力を要請してたのかと思っていた。
そう。俺はそれが気がかりなのだ。赤衣の目的は、俺を連れ戻すことだと思ってる。
あの赤衣はまるで、俺に危害が加わらないようにしてるのかも…
いや、薄々はわかっているのだ。
だけど俺はそれを認めたくないのかもしれない。
…いや、それを受け入れようとしてるのかもしれない。
「待って!」
ミネアはアムルドを止めると、
「確かにアムルドの言うとおりだわ!!私は今からピニキス街へ行って、あなた達の報告をするつもりだった!」
「っっ!おいミネ…」
アムルドが止めに入るが…
「大丈夫」
ミネアはアムルドを宥める。
そして俺に言う
「でもそれはやめとくわ!!私達は赤衣と、ゾンビパウダーについて、独自に調査しようと思う!」
安心した。これならあの二人に危害が及ぶことはないだろう。
俺はコウロ街を後にする
俺はピニキス街付近に戻り、考え事をする。
フィンズはあの研究所の手先だったんだ。
あの赤衣の胸ぐらを掴んだとき、わかった。
顔は別人だが、仮面というか、マスクというか、そういうものを付けてたような感じだった。
でも、目でわかった。仲間だし。
一番付き合いも長いし。
夢も語りあった。
『俺は冒険者になって、ドラゴンを倒す!!で、その素材で、最強の剣を作ってもらうんだ!でね、世界の困ってる人を助けるんだ!』
『いいね、それ。僕はヒビキのサポートをするよ!怪我しちゃったら困るでしょ?』
…懐かしいな。
当時、フィンズに助けられてばかりの俺は、罪悪感を抱いてたよ。だから強くならなきゃって…
でもよ、今よく考えたら、サポートってあれだろ?
監視だろ?よくも、そんなことを平気で言えるもんだ!!
…
お互いの2つ名とかも決めた。
フィンズは、有名になって、初めて人々から言われるものだよとか、小難しいこと言ってたけど…
『えー!別に関係ねえよ!フィンズの2つ名は、金色の賢者!へへっ!カッコいいでしょ』
『えー!?僕が賢者!?…うーん、僕は賢者にはなれっこないよ…あ、えっと、ヒビキの2つ名は、不屈の勇者!ねえねえ、どう?』
懐かしいな。当時はめっちゃ嬉しかった…
今思えば、不屈ってさ…
俺がゾンビ化するのを見越しての発言だったんだなって…それに…
フィンズに賢者は無理だな!
そんな、なにくわぬ顔で、俺を監視してたんだから!
許せねえ!
…
だから…だから…
俺は研究所の連中、赤衣に復讐する。
俺は過去が鮮明に思い出せない。いや思い出すことを拒否してるのかもしれない。
両親だって、普段何してたかもわからない。
5、6歳のころの記憶なんてあてにできないのかもしれないけど。
…
考えがまとまらない。
頭が痛い…
フィンズは俺の恩人で
俺の友達だ!!
そう決心したとき、
朝日は昇る
あ!!!布体に巻き付けるの忘れてた!!
体から煙と痛みが発生すると同時に、全身をドリルのように回転させ、地面に穴を掘る
シキ!!フィンズ!!
布を取ってきてくれ!!!!
っていうコンタクトを、どうやって取ればいいんだ?
と、考えてるうちに、
「よっしゃあーーーーーー!!!焼き肉食うぞおおおおおアアアアアアア!!!」
外壁門の方から、シキのバカでかい声が聞こえた。
…うっせ




