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プロローグ
ディオネ・シン・グレモリーは、階段の踊り場で嘗ての婚約者とその取り巻きと、憎き庶民の娘、シーラ・ウィリアムズに囲まれていた。
「ディオネ、何故シーラを叩いた」
冷たい声音がディオネの頭上から降ってくる。ディオネの婚約者であり、この国の王子であるイヴァン・グスターガスの声だった。公爵家のディオネと婚約しているにも関わらず、庶民の娘であるシーラに惚れ込み、公務などそっちのけでシーラに贈り物を贈ると息巻いて街へ繰り出す様な阿呆になってしまった。
そんな男の為に自分を磨いていたのかと、ディオネは思わず溜息をついた。
「私は叩いてなどおりませんわ。シーラ様を叩く理由が有りませんもの」
「何を言う。私がシーラを側に置いているから嫉妬しているのだろう」
ディオネが言えば、当然とばかりにイヴァンが答える。
ディオネは公爵家の令嬢である。
自ら、そして家の名を貶めるような事はしない。喩えするとしても決して見付からない様にする。