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魔術士は求む者  作者: 土月 十日
一章 赤・七選・塔の夜戦
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エピローグ

 そして、時間は経過した。

 僕は(きわ)()の最上階に呼び出されていた。


 入った部屋はとても簡素で、中央に安楽椅子が置かれているだけだった。しかし、そこに座っている人物がいるだけでこの場所は王国有数の価値ある場所になりうる。

 現代において最高の魔術士を探せばまず筆頭にあがる、当代の賢者(がしら)

 ハイレター・フォスカイ。

 白髪の下の(しわ)が寄った顔には、老樹のような静けさと、知性の輝きが(うかが)える。

 身震いしそうになる体を抑えて、言葉を待つ。

 ハイレターは疲れた顔を動かさず、瞳だけをこちらに向けて口を開いた。


「かつての大賢者レドウッドがこの青の三角を設立し、多くの魔術士が直接的に、間接的にはほぼ全ての王国民が彼の知識の恩恵に預かってきた。私もその例外ではないはい。彼の存在に感謝している。しかし、この規則だけはいただけない」


 独り言のようにハイレターが呟く。

 僕程度が口を挟めるわけもない。


「レドウッドは独裁を好むからな。分権など持ってのほかなのだろう。それゆえにな、この意思確認は必ずその時の賢者頭が行わねばならない。そういう規則だからだ。

 さて、カスタット・ポゥさん」

「はい」


 ハイレターの呼びかけに応じる。

 彼の言葉を考えれば、行われるのは意思確認なのだろう。

 何の、か。

 予想はできる。


「あなたは、塔の到達階数において第五位です。七選に選ばれる資格があります。私があなたに問うのは、このまま青の三角で学ぶことを選ぶかということ。

 一年前なら喜んであなたはそれを選んだでしょう。しかし、あなたはその一年で多くを学びました。すでに隔絶した魔術士と言えるでしょう。その能力の使い方次第では市井に出れば千人を救え、一個人には充分な富を得ることもできます。

 どちらを選ぶのもあなたの心です。青の三角は一切を強制しません」

「橙の学年に進みます」


 そう答えると、ハイレターはかすかに微笑んだように見えた。あるいは気のせいかもしれない。

 退室を促されたのでそのまま部屋を出る。

 相変わらず、静かなくせにとてつもない威圧感のある建物だ。ハイレターを始め、大陸でも有数の魔術士達が集まっているからだろう。

 塔の魔力を利用して以来、他人の魔力に対して少し感覚が鋭くなった。その分、ここにいるのが怖くなる。

 究め舎を出てしばらく歩くと、見慣れた人物が立っていた。


「キャンディナさん」

「あなたは進むことを決めたみたいですね」


 キャンディナは少しだけ寂しそうな声でそう言った。

 長い髪が風になびいて、その先を追うように彼女は視線を滑らせる。


「キャンディナさんは」

「私は辞退しました。私のしたいことは、ここにはもう無くなってしまいましたから」

「そう」

「私の席が空いた分、フィユが繰り上がるでしょう。よろしくお願いしますね」


 もったいないことをする、と思ったが口にだすことではない。

 彼女が決めたこと。それに干渉するのは一度でも多いくらいだ。


「ギルドに登録はしたの?」

「ええ、驚くほど簡単ですね。もっと書類など必要かと思っていましたが」

「犯罪者とか、亡命者とか、そういう人達への救済措置というか掃き溜めとしての役割もあるからね。そっか、しばらくはリヴァージュを拠点に?」

「はい。カリヴァさん達も面倒を見てくれるそうですし。何か依頼があれば、是非私にしてくださいね」


 キャンディナは冒険者になることを選んだ。

 その選択をするために彼女の実家や、その周囲と色々ないざこざがあったけれど、結局は彼女の意志が勝った。

 僕は肩をすくめてみせる。


「お金は無いから依頼料は期待しないでよ」

「どんなに安くても引き受けますよ、あなたの依頼なら」


 口元を緩やかに曲げて、彼女の青紫の瞳が僕を見つめた。

 最初に会った時に感じた、悲壮的なまでに強い意志はすでにそこには見えない。強い意志を見せる必要がもう無いからだ。あれは、彼女なりの周囲への威嚇だったのだろう。

 もう彼女には自分を強く見せる必要はない。

 それは、いいことなのだろうか。


「キャンディナさんは」

「ミーティクルです」


 少しだけ悪戯っぽい声で遮られた。


「ずっと、私はミーティクルである前にキャンディナ家の娘でした。けれど、今は、キャンディナ家である前に私はミーティクルです。ですから、ミーティクルと呼んでください」


 言われるとおりに彼女の名前を口にすると、ミーティクルは少し頬を染めて微笑んだ。


「同じ街に住むんです。また会うこともあるでしょう。その時はよろしくお願いしますね」


 そう言うと彼女は去っていった。

 その後姿を見送って、僕は宿り舎に戻る。

 今日は早目に湯に浸かって、ゆっくりと眠りたくなった。



  * *



 八一六期 赤の学生 七選選抜者



 第八位 五六階 フィユ・ウィン・シュバイツェル



 第七位 五八階 ホウプ・ウィン・ジンコーム



 第六位 六二階 ジャール・カルノル



 第五位 八一階 カスタット・ポゥ



 第四位 八九階 ルルティア・ウィン・レオフカ



 第三位 九六階 フェルター・ウィン・ビズリアス



 第一位 二〇〇階 エルノイ・ウィン・ディアリルム



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