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死に損ないの諧謔  作者: 荒島 直宏
高校事変編
7/10

6.面談

挿絵(By みてみん)


11:30  横浜警察署


事情聴取が終わり、警察署の入り口前に出た。実際事情聴取を受けたのは僕だけで、葉上君達は何処かに行ってしまった。この後学校に残っている生徒にも事情聴取を行うらしい。事情聴取はもっと堅苦しいものだと思っていたが、案外そうでもなかった。相手が先程会った安藤さんだったのも理由かもしれないが、それ以上に警察の人は皆友好的に接してくれたからだろう。

家まで車で送ってくれるという安藤さんが傍に立っている車の方へと近づいた。 安藤さんは微笑んで僕を助手席へ迎え入れる。僕が言った住所をカーナビに入力して、車は走り出した。


「いやぁ、今日大変だったね。本当にありがとう」

「いや……別に……」


正義感云々よりは、単に鬱憤を晴らすことが目的の大半だったのだが、口にはしなかった。先程も安藤さんの僕に対する態度が心なしか異常に優しい。恐らく、彼にとって僕は自分の身も犠牲にしてまで正義を貫く少年、とでも思っているのだろう。それならば好都合だ。僕は気になっていた質問を投げかけた。


「あの、葉上君とか、冬坂さんとか、五十嵐君とか、警察の人とかと関係あるんですか?」

「あぁ、あの子たちは特殊青少年チームだよ」


聞き覚えのない単語に僕は首をかしげた。安藤さんはそのまま説明を続ける。


「まぁ、警察関係でのバイトみたいなものかな。特異者の青少年を集めて、凶悪犯罪や、”まだ”何も起ってなくて警察が手の出さないような件なんかを解決するんだ」

「そんな募集かけてたんですか?」


安藤さんは首を横に振った。


「警察関係の人間が推薦するのさ」

「あぁ、なるほど」


確かにそんな募集しているところなど見たこともなかった。まぁ、自分の高校に3人もいるとは思わなかった。世間は案外狭いものだ。すると急に、安藤さんは何かを思い出したようで、少し困ったような顔を浮かべた。何だろうと思ったが、自分のような高校生ごときに深追いされるもの癪だろうと考えて黙っていた。



4月30日 14:00 御守家



しばらくの間、学校は休校になった。新しい教員の派遣の確定と、調査が終わるまでの間らしい。時折面倒だと思う学校生活も、こうして長い間休みなのもまた退屈なものである。夏休みならばまだ課題なりなんなりがあるので、その退屈はあまりやっては来ない。特に誰かと出かけるような予定もなく、ただただ時間を持て余している。SNSも、タイムラインを見終わってしまえば暇で、ゲームも自分が下手なあまりにストレスが溜まるばかりである。唯一やることと言えば、家事の手伝い程度だろうか。

そんな時、一階から外の音と共に玄関の扉が開く音がした。今、家にいるのは僕と母さんだ。弟は学校、父さんは事務所に仕事に出ている。母さんが僕の気づかないうちに出かけていたか、弟か父さんが早退してきたのか。僕は確かめようと部屋を出て、階段を降りた。その最中、母さんの声が聞こえた。


「あらあらパパったら、今日は早退してきたのね。えぇと、その人は?」


どうやら、父さんが客を連れて早退してきたようだ。特に自分とは関係はないだろうが少し気になって階段を降りて、玄関の方に顔を向けた。


「あぁ、この人は刑事の花道さん。ちょっと話があってね」


僕に関係のある人のようだった。その人が短く挨拶をすると、父さんがまた口を開く。


「少し話があってね。2人とも入れて」


と、僕と母さんを見る。自分がなにかしでかしたのだろうかと記憶を遡ってみるが、心当たりがあるとするならばこの間の事件のことだろうか。そそくさと廊下を歩く大人達のあとをついていった。

食卓でそれぞれ父さんと母さん、花道さんと僕が向かい合わせになる形で席につく。一番に話を始めたのは花道さんであった。


「率直に言いますと、元也君に是非警察の方に協力して頂きたいのです」


それを始めとして彼女は第一印象の寡黙なイメージを覆す程口を動かし続けた。

安藤さんも言っていた特殊青年チームについて。警察関係の人間が推薦した特異者である青少年達による集団であること。特異者でなければ困難な事件、警察が手出しできないような事件を解決するというものということ。一つ事件を終えるごとにそれ相応の金額が貰えるということ。この団体は本人達の承諾があれば何時でも仕事が出来るということ。それが学校時であっても、途中退出は認められるということ。

それから、なぜ青少年であるのか。青少年は心身ともに成長途中。特異者は青少年時代に能力が向上、さらなる覚醒が期待されているため、青少年中心であるということ。

そして、保険はつく、というような話だった。

説明を終えて、花道さんはどうでしょうか、と僕と母さんに尋ねた。父さんは花道さんの意見に賛成の様子であった。


「父さんはいいと思うよ。危険だろうけど、花道さんがいることだし。それにきっもいい経験になる」

「あら、そうなの?」


父さんの言葉に母さんは少し悩んで僕の方を見た。僕に判断を委ねようとしているのだろう。


「…………。じゃあ、やります」


その一言で僕の警察への協力が決まってしまった。

断れるはずがなかった。あの空間において、恐らく賛成の割合は4分の3だ。母さんも悩んでいる仕草は見られたが、父さんの意見には昔から同調する人である。

検察官である父はどうやら花道さんとは少し仕事の付き合いがあったようだ。彼女にいつもの様に家庭の話を持ち込んでいたりもしていたのだろう。父さんは良い父親であることに誇りを持っている。花道さんの僕を推薦する姿勢をひどく気に入ったのだ。そうに違いない。父さんは昔からそういう人だ。一方で弟は僕に対して当たりがきつい。そんな家庭環境下、僕が日常においても家の中で反対意見を言うということはありえない話であった。



5月2日 13:00 横浜警察署


早速、面接を行うと言われて花道さんの所属している警察署へと足を運んだ。受付で花道さんと合流し、いきなり面接の部屋へと通された。挨拶をして、座るように促されて座った僕の目の前には面接相手が三人いた。

真ん中は少し白髪が生えたガタイのいい男性、彼を挟む中の上ぐらいの男性2人。僕の横には花道さんが立っている。

真ん中の男性はこの間花道さんが訪問してきた際に僕が書いた書類をチラリと見て僕と目を合わせた。


「君が御守君だね。私は樋上 泰成。ここの署長をさせて貰ってるよ」

「……よろしくお願いします」


それで、と樋上さんは花道さんの方に顔を向けた。


「君が推薦だなんて意外だな。よりにもよって、こんな大人しそうな彼を」

「署長、その話はここで関係はあるのでしょうか」


冷たく返事をする花道さんを両脇の男性が気まずそうに見ている。確かに上司に、しかも一番上の人間にそのように言う人間は日本では珍しいのかもしれない。

それに対して樋上さんは笑った。


「まぁまぁ、少し肩の力を抜きたまえ。私はかしこまって話すのは苦手なのだよ。それに、御守君に緊張させてしまっては悪いだろう?」


花道さんは僕を一瞥して、黙った。その沈黙は肯定であるとすぐにわかった。


「さ、気楽に行こう気楽に。試験の面接というよりは一度君と顔を合わせるためのものだから、世間話も織り交ぜていこうか」


彼は誰が見ても親しみやすい人間であることはわかる。ただ、署長という肩書きがあるだけで相手を緊張させてしまうのだ。現に僕がそうである。気楽にと言われても、緊張はそう簡単に抜けるものではない。


「えぇと、それじゃあ、そうだな。好きなスポーツはあるかな?」

「…………好き、というものは無いですが、走ることは得意ではあります」

「あぁ、いいね。走るのが得意だと、応用が利く。どのスポーツにおいても脚は大事だよ脚は」


と言って、自分の脹脛をパンパンと叩いた。


「次はそうだな……、趣味は?」

「…………料理、です」

「家庭的、いいね。何を作るんだい?」

「得意なのは、肉じゃが、です」

「おお、おふくろの味といった料理か。部活は何か?」

「……何も入ってません」

「勧誘はされなかったのかね?」

「されました。けど、どれも興味がなかったもので」


この人はトントンと話を変えては少し広げて、また話を変える。ということを繰り返した。ただ、それが僕自身についての質問ばかりで少し困ってしまった。いまいち、自分のことをよく分かっていない。楽しみは何か、と聴かれても無いので代用のものを答えるばかりだ。無い、のではなく気づいていないだけかもしれないが。

しばらくそんな時間が続いて、ようやく本題の方に入ったようだった。


「それでだね、君の能力は……と。不老不死。成長はまだ続いていて、まだどこで止まるかは不明、か。興味深い。実に興味深い」


うんうんと、自分で頷いて樋上さんは顎に手をあてる。


「あぁ、今のは古い友人の真似をしてみたのだよ。さすがに笑い方を真似るのは抵抗があったからやらないが。どうだ、似てただろう?」

「署長」


花道さんがまたもやピシャリと言葉を発した。さすがにこれには両脇の男性も花道さんに同意であるようだ。すまんすまん、と軽く謝って僕に目を合わせる。


「あと、補足にあった刀。何でも斬ることができて、絶対に折れない。どこかで作ってもらったのかね?」

「…………」


返答に迷っていると答えたくなければ良いのだよ、と流してくれた。


「先日の事件でもこの能力を活かして解決してくれたことに感謝するよ」


その話は最初にすることではないのだろうか。そう思ったが、自分の中に留めた。


「ちなみに、彼女の頼みをきいてくれた……まぁ、我々の頼みでもあるのだが……何か、決め手はあるのかい?」

「……」


それは流れです。

そう答えるのは神経が図太い人間だろう。答えられるはずもない。かといって、正義のためだとか言うのも臭い気がするし、お金目当てだというのも小汚い。そんな僕を見兼ねたのか、樋上さんは口を開いた。


「まぁ、君のお父さんが検察官というのもあるし、断ろうにも断れなかった、というのもあるだろう。何より、花道君の威圧には勝てない」


また声に出して笑っている。

案外間違ってはいなかったので、否定はしなかった。樋上さんは優しい声で言った。


「事件の解決、及び我々への協力、感謝するよ。辞めたくなったら、遠慮なく言いなさい。それは、恥じることでも間違ったことでもないのだからね」


それを最後に面接を終えた。

やめたくなったらやめる、それも考慮しておこう。

ただ、今は頭の隅に置いておくことにした。

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