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死に損ないの諧謔  作者: 荒島 直宏
高校事変編
6/10

5.段落

挿絵(By みてみん)



9:42



警察がサイレンを鳴らしてようやく高校に到着した。

殆どの生徒は運動場の方に集められていたが、僕は冬坂さんに連れられて、五十嵐、葉上君も運動場の端の方で刑事の男女二人から呼ばれていた。女性が最初に口を開く。


「ありがとう。おかげで生徒の被害も少なかったみたいで。武装の自由万々歳ってところかしら」

「彼の助けがあったからです」


冬坂さんは後ろで突っ立っていた僕の腕を引っ張って前に出させた。女性は、僕を暫く黙って見つめ、


「ご協力感謝します。私は刑事の花道 菫です」

「あ、俺は安藤 涼介です」

「え、あ、えっと、御守、元也、です」


あまりにも淡々としすぎていて、思わずぎこちない挨拶になってしまった。警察関係からの感謝は、もう少し明るいものだと思っていた。そんな僕の話はすぐ終わり、花道さんは話題を元に戻した。


「今回の犯人は、久本組の幹部とその部下。訊いたらすんなり答えてくれた。人身売買が目的ってこともね」


忌々しげな眼をしていた。確かに、そういう目的ならば仕方ないだろう。


「……あと、今回の事件で、教師は全員死亡している」

「全員!?」


僕は遅刻していて先生たちの状況はまったくもって知らないが、一人ぐらいは生き残りがいるのではと疑問に思った。驚く僕たちにも気にせず、話は続いた。


「職員室、進路指導室、生徒指導室、教科ごとの教室も全部駄目だった」

「それにしても、いつの間に……」


葉上君の言葉に花道さんは答えた。


「死亡推定時刻は全員8時20分頃。死因は頭部の圧縮」

「頭部の圧縮……?」


思わず言葉を繰り返した。意味が良く分からない。頭部の圧縮、とは潰されていた、とはまた違うのだろうか。しかも、同じ時刻に々死に方とは奇妙だ。


「ええと……よく、ペットボトルが水圧で潰されるって話があるでしょう。そのペットボトルが人の首に変わったような……」


気分が悪くなった。分かりやすい例えなだけに、想像できてしまった。冬坂さんが顎に手を当てて関げ込んでいる。


「特異者……でしょうか」

「その可能性は高い。まぁ、奴らに訊いてみる必要はあるけれど」


参った参ったと言った表情で花道さんは言った。話が一区切りついたところで


「血、大丈夫?」

「あぁ……家にもう一着あるので」


血が凝結してカピカピになった制服を触りながら答えた。そばに居た安藤さんはぽつりと呟く。


「返り血か……」

「バァカ。そこまで御守さんはクレイジーじゃねぇ。怪我したんだ、怪我」


お前が馬鹿だよ。

そう思った。案の定、花道さんと安藤さんは2人で顔を見合わせて、不思議そうな顔になる。安藤さんが戸惑った様子で言う。


「えーっと……結構ピンピンしてるけど……そんな大怪我を……?」

「銃で撃たれたけど、この人は不老不死の特異者なのさ!!」


またもや五十嵐が馬鹿な事をしでかす。

自分の能力の事はあまり知られたくないのに。知られて、良い思いをした覚えなどなかった。現に、教室で撃たれた時も僕を見る生徒達の目は忘れられない。

困惑している安藤さんを差し置いて花道さんは僕に近付いてきた。


「…………」

「………っ」

「……………」


ずっと、僕を見つめた後彼女は懐からメモ帳とペンを取り出して、つらつらと何かを書いて、千切った髪一枚と、メモ帳をを手渡してきた。


「電話番号を、書いていただけますか」

「えっ」


突然のことだったので、少し驚いたが、今回の事件の事もあるからだろうと頷いて、ペンも受け取ってスマートフォンと自宅の電話番号を書いて、花道さんに返した。


「ありがとうございます」

「あの、別に事情聴取の後でもよかったんじゃ……」


安藤さんが控え気味に言うが、それをスルーして、花道さんは言った。


「とりあえず、皆署に来てもらいます」


そうして僕たちはパトカーに乗り込んでいくが、その中で僕一人だけがあまり彼らの関係が分からず、取り残されている気がした。

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