4.一瞬
9:30
少しの静寂、続いてざわつき、最後には怒鳴り声が聞こえてきた。
「嗚呼!!信じられない!!レディを蹴り飛ばすだなんて!! 」
階段の下から御守を見上げて女性が喚き散らしている。
御守はごみを見るような目でその女性を見下していた。
その態度が気に食わないようで、喚きから本格的な怒鳴り声に変わる。
「何よその目はぁ!!アンタ、レディーに対する扱いがなってないんじゃなくて!?」
「だってアンタ、ブスだし」
その言葉で、その場は静かになった。正直、俺も何を言っているんだと思った。その女性は、俺から見れば、どう見たってブスではない。むしろ、美人の部類に入るだろう。まぁ、好みの問題もあるだろうし、性格も……良いとはいえない……と思う。
女性は、わなわなと体を震わせていた。
「あぁ……あぁ……!そう……!そう…………。…………こんの、クッソガキィがぁッ!!!」
女性が手をあげると同時に、周りの男たちは御守に銃口を向ける。
「御守!!」
彼の体が不死身だと言う事が分かっていても、叫ばずには居られなかった。
当の本人は素早く五十嵐の背後に隠れてやり過ごしていた。
「ブスな上に短気……か」
うっすらと、そんな呟きが聞こえた気がした。その後すぐに
「……五十嵐、仕返し、してやりなよ」
「……!はい!喜んでえええええ!」
喜んで、の言葉を撒き散らしながら階段を駆け下り、男達に体当たりをかましていく。……まるて、ラグビーの試合を見ているかのようだった。それを女性は遠くに逃げて、様子を慌てた様子で見ている。男達が慌てて、どんなに五十嵐に向けて銃を撃っても全て跳ね返ってくるのだから、その反応は仕方が無い。
その一方で、御守は階段を落ち着いた様子で降りていく。その様子を見て、女性は更に震えた。その状態で拳銃を構えて撃つものだから、銃弾は彼に当たらずにあさっての方向へ。
当たらないことを悟ったのか、女性は棒状のスタンガンを上に上げ、叫びながら御守に向かって走り出した。
確かに、あれで殴る方が当たるだろうし、硬さも十分だ。
しかし、気づいた頃にはそれは、真っ二つに、綺麗に、切れていた。彼の方を見れば、鞘から刀を抜いて、上の方に上げていた。逆袈裟、をしていたのだろうか。
速さにも驚いたが、それよりも、切れ味に呆気を取られていた。
実際の刀は、使い切りが殆どという話を耳にしたことがある。人肉などを斬ると、なかなか抜けないし、抜けたとしても脂などがこびり付いて使い物にならないと。よく漫画で見るような斬れ味程ではない……らしい。
しかし、彼の刀はいとも簡単に斬ってしまった。スタンガンが軟らかったのだろうかと思うぐらいには、驚いた。
当の本人は、そんな周りの反応など気にとめず呟いた。
「ブスって気の毒だから、脂肪ぐらいなら、そぎ落としてやってもいいけど」
直訳すれば、お前の身体も斬ってやろうか、ということだろうか。
女性は、口を開け、目を見開いたまま、硬直し、そのまま泡を吹いて倒れた。
周りの男達は頭の女性がダウンしてしまい、困惑し始めた。
そんな中、パトカーのサイレンが煩く鳴り響いていた。