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死に損ないの諧謔  作者: 荒島 直宏
高校事変編
4/10

3.行進

挿絵(By みてみん)




4月26日 8:55 赤西高校


男子達が教卓の中にあったビニール紐で男二人の手足を縛り、机の足にくくりつけた。それから、少しクラスメイト達はヒソヒソとざわつき始めたが、先程拳銃で男の腕を撃った葉上君に静かに、と口の前に人差し指を立てる仕草をされ、静かになる。静かになると廊下から足音が聞こえるようになった。先刻の騒ぎで仲間が様子を見に来たのかもしれない。扉の方に銃口を向けて葉上君は構えている。扉の前で足音が止んだ。前と言ってもガラスの部分からは姿は見えない。恐らく相手も警戒して身を潜めているのだろう。


数秒して、勢いよく扉が大きな音を立てて開かれた。

扉を開いた男は何か汚い言葉を喚き散らしていたが、すぐにその声は途切れた。

男は何かに吹き飛ばされ、入口から姿が見えなくなった。一瞬何が起こったのか分からず、僕達は顔を見合わせていた。

男が吹き飛ばされた方向から再び足音が聞こえる。身構えたのも束の間、男を吹き飛ばしたであろう人物が姿を現した。


「よぉ、てめーら大丈夫か?」

「五十嵐かよ!」


この二組の二つ隣の五十嵐だった。入学当時は僕に対して何かにつけて突っかかって来ていたのに、ある日突然態度を変えて敬語等を使ってきた。正直気味が悪い。彼に恩を売るようなことも何もしていない。こんな髪をオレンジに染めた巨漢が慕ってくるなと考えられないのだ。

少しクラスメイトと話をしていた五十嵐は僕に気づくやいなや、ドスドスと駆け寄ってきた。


「御守さん!おはようございます!」

「おはよう」

「朝いなかったから心配してたんですよ!もしかして、こうなると分かっててわざと遅れて登校し、スキをついてコイツらをお縄頂戴したんですか!そうなんですね!」

「うっせぇな寝坊だよ」


あまりにもやかましく遅刻の理由を勝手にベラベラと語り始めたのが鬱陶しくて制止する。すぐにまたすいません!と大声で謝ってきた。

話を簡潔に聞いたところ、五十嵐は侵入者をなぎ倒して各クラスを回っていたらしい。ということは、この階で残っているのは1組だけか。


「それにしてもよくそんなに無傷でいれたもんだね」

「あれ、知らなかったのか?五十嵐、特異者で体を傷つけられないんだ。簡単に言えば頑丈すぎな体」

「ちょっと!御守さん忘れちゃったんですか!」


葉上君に説明されて、そして五十嵐に言われて五十嵐との会話(主に五十嵐が一方的にベラベラと話しているだけだが)を思い返してみる。

……言われてみれば、なんだかそんなことを言っていた気がする。

僕がその話をされた時に適当に聞き流していたのだろう。


「ごめん、話聞いてなかった。まぁ、今はどうでもいいでしょ」

「それもそうか」


葉上君が短く答えて、廊下の窓の外を覗きに行く。それに釣られて僕も覗く。大型トラック10台が道路に止まっていて、既に生徒がその中に押し込まれているところだった。扱いが人の扱いではなく、荷物だ。


「あの中に放り込まれるなんてごめんだな」


ふと背後から少女の声が聞こえて振り返ると、1組の冬坂さんがそこに立っていた。


「ビックリしたな歩」

「ごめん、悪気はなかったんだ。そっちのクラスは何とかなったのか?」

「まぁ、なんとか。あとのクラスは五十嵐が片付けたらしい」


葉上君と冬坂さんが会話をしている。

この学年にはやばいヤツが潜んでる確率が高いのでは。

そんなことも考えているとふたりはいつの間にか居なくなっていた。

……おふたりでお出かけですか

置いていかれたことに僅かながらに不満を覚える。

あの、僕にとってやばいやつのなかに入ってる2人のことだ。何をしようとしてるのかは予想がつく。

その結果、やろうとしてることは本当にめちゃくちゃな思考回路と自覚しつつ、教室の扉から五十嵐を呼んだ。


「乱暴な奴らさ、しめに行こう」




9:15


僕と五十嵐は慎重に階段を下りて、一階に来ている。目的は武器庫に預けているものを取りに行くことだ。降りて、廊下を歩いていく。ここは3年生の階なのだが、一部は既に連れていかれた後のようで何クラスかはもぬけの殻だ。そっちの方向が安全だと、僕達はそこの前を歩いている。ロッカーエリアにたどり着けば、一息つけるだろう。

あの二人は一体どこに行ってしまったのか、気になるところだ。あの二人の事だ、二階の二年のクラスに向かっているか、道路の車の方に向かっているかだろう。


ロッカー室にたどり着き、ロッカーの陰に潜む。こういう時に五十嵐の体格が大きいのが困りものだ。幸い、不審者達はいなかったのですぐに武器庫に足を踏み入れた。

武器庫、といっても会議室ぐらいの広さのある部屋だ。ロッカーが多く存在しているが、あまり武器を持参する生徒はいないので使用されているロッカーは少ない。

確か僕は一番奥のロッカーに入れたはずだ。ロッカーの鍵を差し込み、開く。中に打刀が一振り。

取り出して、鞘に自分でつけた紐をベルトにくくりつけて帯刀した。

何か預けているものはないのかという意味を込めて五十嵐を見る。五十嵐は、視線の意味を理解しようと少し考えた後、満面の笑みを浮かべて、大声で答えた。


「やべぇっすよ!かっけーっす!いかしてます!」

「うるせぇよ!!」


なんてことをしてくれてるんだ。

つい自分も大声を出してしまった。気付けば遠くの方で生徒達があるいているであろう足音が聞こえている。その中で、明らかにこちらに近付いてきている足音が聞こえてきた。僕は五十嵐を睨みつけ、何処かに隠れるように小声で指示した。

僕と五十嵐はロッカーの裏に隠れた。(いくつかのロッカーを自分の方に引き寄せた)。


扉を開ける音がして、口を手で押さえて息をひそめる。教室を一回りしているようで、足音は近付いてきたが、また遠ざかって行った。恐らく一周したであろう。もう出て行くかと思っていたら、ロッカーを開ける音がした。そして、ガン!というロッカーの倒れる音が聞こえた。

それは少し間をおいて再び聞こえてくる。どうやら一つずつ開けて、倒して確かめているようだ。

いやいやいや、明らかに五十嵐の隠れてるところが不自然な事に気がつかないのか?あんなに大きく出っ張っているのに。

第三者から見れば自然に見えているのかもしれない。徐々にロッカーの開く音と倒れる音がこちらに近付いてきている。等々、足音は僕のロッカーの目の前で止まった。

どうする、不意打ちをかけてみるか。

そっと懐のナイフを一本、手にする。この狭い空間では十分に構える事もできる訳がなく、心もとない。

ロッカーの扉に手をかける音が聞こえた。固唾をのんで、立っていた。














が、五十嵐のけたたましい雄たけび声が響き渡って銃弾の音とロッカーなどが倒れる音が聞こえた。自分も参戦すべきかと考えたが、下手に出て状況が悪化してもよくない。ここは静かに様子を見ることにした。やがて、何か、はじける様な、耳に悪い音と人間が床に倒れる音がして、重い足音、扉が開いた音がして静寂が訪れた。警戒しながらロッカーの浦から出ると、いくつかのロッカーが倒れた、争った形跡が残っていた。五十嵐が相手を連れて行ったか、相手が五十嵐を連れて行ったか。しかし、五十嵐なら「もう大丈夫っすよ!」などとまた大声で言うだろう。

……五十嵐がやられた?あの頑丈な五十嵐が。

五十嵐がやられてしまうのは信じられないことだったが、僕は五十嵐と誰かが戦っている光景を目にはしていない。もしかしたら、相手は何か策を持っていたのかもしれない。

……一人、か。一人でもクラスをまわって倒していけそうだけど、痛いの嫌なんだよなぁ……。壁いないし。

それなら……



9:20


高校の正面玄関に1、2、3……10台。その中の門に一番近いトラックが生徒を乗せ終わったようで、もうすぐ出て行きそうだ。早く何とかしなければ、と隣の奴を見る。もう既にそいつは準備はできていた。後はこいつが…………


「ようし、準備は終わったぜ」

「じゃ、出発してくれ」













引き金を、引くだけだ











二つ続いて銃声が響き渡り、トラックは無様にも進まない。更に他のトラックのタイヤも車輪に銃弾を撃ち込み、駄目にする。


「僕が突っ込んでいく。葉上、後衛は任せた」

「OK。歩、あとトラックの中の人達も頼む」

「わかった」


葉上と別れて僕が突っ込んでいく。突然の事でパニックを起こした男たちは慌てて僕に銃口を向けるが、標準はまったくもってあっておらず、あさっての方向へと銃弾は飛んでいく。それと対照的に葉上の銃弾は百発百中。僕に牙をむく奴らは葉上が手元を撃ち、僕は進むのに邪魔な奴らをなぎ倒す。騒ぎに気付いた仲間も集まってきた。

まだ鍵の掛かっていないトラックの中の生徒達は中でその様子を不安そうに見ている。

……放っておけば、人質にされるか。


「葉上!そこの人達を守ってやってくれ!僕はこっちの鍵を壊す!」

「わかった!」


僕は出発しかけていたトラックへ、葉上の狙いはまだ鍵の掛かっていないトラックの周りの奴らへ。

ったく、原山の奴……!ここまで来るのにどれだけ時間をかけているんだ……!

さっき原山と警察に連絡をした。警察は時間がかかっても仕方ない。しかし、原山はここまで来るのにさほど時間はかからないはずだ。一体、どこで道草を食っているのか。

イライラいながらも、施錠されたトラックの前にたどり着いた。トラックの荷台の扉をわざわざ鍵で開けるまでもない。

右手で握り拳を作り、扉に思い切りぶつけた。僕の拳は大きな音を立てて扉に穴を開けた。周りは騒然としており、中からもざわざわとした声が聞こえる。

……聞こえない。僕には何も聞こえていない。

僕は、穴の縁を両手で取ってつかみ、簡単に穴を広げる。その後は足で縁の下の方を踏んづけ、上の縁を右手で押し上げて、縦にも広げて、人一人は出れるぐらいの穴はできた。


「とりあえず穴は開けた。僕達がなんとかするから、落ち着いたら声をかけるよ。それまでは、ここにいてくれ」


生徒達は頷くだけ。一人、目の前の生徒の学年証を見たところ、ここに乗っているのは三年生のようだ。先程敬語を使わなかったのはまずかっただろうか。しかし、この状況では仕方がない。

僕に近寄る敵、向こうのトラックに近寄る敵は葉上が何とかしてくれている。振り返り、倒れている敵の様子を見ると、どうやら麻酔弾に切り替えたようだった。麻酔銃と同じような効果を出す、ドイツの職人が作りだしたものらしい。

ふと校舎の方を見ると窓から校内に残っている生徒達ががこちらをみていた。

嗚呼!撃たれでもしたらどうするんだ!

少しばかりイラつきを覚えたが、そうならないためにも早く終わらせてしまおうと動き出した。



ひとつの大声が聞こえた。


「あ、五十嵐!!」


は?誰って?

あんな巨漢が何処に居ると言うのか。気付けば葉上も出て来てあたりを見回していた。私も、周りを見てみる。


甲高く、耳障りな笑い声が聞こえた。


「はぁい、みなさまぁ!!ごきげんよぅ!」


中央階段の方からだ。見てみると、丈の短いワイシャツに、スリット入りのロングスカートを履いた女性が立っている。その隣には、後ろ手に縛られて、二人の男に体を押さえられている五十嵐が。


「五十嵐!!お前、何してるんだ!!」

「こいつらがよ……!」

「魔法のステッキで電気ビリビリ」


棒状のスタンガンを持って女性は似合わないかわいこぶりをする。

体に傷は付かないけど、電気は流れる、ということか。

僕がそいつ等の元へ走りだそうとすると、葉上が腕を掴んで制止した。


「待て!へたに動いたら……」

「そう、へたな事したら……」


男の一人が、五十嵐の口をこじ開け、女がその中に銃口をねじりこむ。


「死んじゃうかも」


この女……ムカつく顔をしやがって……

あたりを見ると、残りの奴らが私達に銃口を向けている。

そんな私を愉快そうに女は見て、カウントダウンを始める。


「3……」


一斉に奴らが銃を撃つ構えをとる。


「2……」


引き金に指をかける。

次のカウントダウンで撃つ、つもりだ。


「1―――」


同時に音が…………


















人体を殴る音が、した。


「えっ……?」


そんな呆けた声も聞こえて、女は階段から落ちて行った。

その出来事に私達、奴らは呆気にとられて女のいた場所に目線を向けた。その瞬間に同じように階段から男二人も落ちてくる。見ると、腕から血があふれ出ている。

誰かが、やった。誰かが……


「御守さぁぁぁん!!!」

「うるさい……な……」


少し、息を切らした御守君がいた。

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