アブノーマル・ハイスクール
<登場人物紹介>
<1年A組>
瀬川未来
山川愛
菊谷翔真
この作品のメインキャラ。
畑中汀子
<教師>
稲生忠明
未来たちのクラスの担任。
<警護庁>……異能力犯罪捜査専門の官庁。
大地揺影
警護庁長官。
繁谷行平
瀬川未来は今日もため息をついていた。
「おい未来。また山川がまた男子更衣室覗いてるんだけど俺はどう
すればいいんだ?」
「いつもの事だろ。放っとけよ菊谷」
未来は今日も思った。この学校はおかしい、と。まあそれも無理
はない話であるのだが。
「俺の予知能力によれば、お前は山川に注意しに行ってビンタされ
て帰ってくる。間違いない」
「なんだよそれ~!大丈夫だって!山川の心の声聞いて、怒らせな
いようにうまくやるからさ!」
「あまり俺の能力舐めない方がいいぞ」
彼らの通う高校――青陵学園は、ほかの学校とは大きく異なる特徴
がある。それは、「あることにおける天才、そして――異能力者しか
この学校の門扉を叩けないということである。
例えば、未来の場合は予知能力。対象の目を三秒間見つめること
でその者の未来を一分先まで予知できるものだ。山川愛の場合は、
透視。幅三十センチ以内の壁であればその壁に目を当てることで壁
の向こう側を見ることができる。菊谷翔真は読心術。相手の顔を見
ながらその相手の顔を意識することで相手が何を考えているのかを
読みとることができる。
「さて、みんな席に就け~。ホームルームの時間だぞ」
稲生先生が言うが、クラスの一部の男子はまだ友達と話している。
するとおもむろに先生はチョークを右手の人差指と中指で挟み、
その生徒に向かって思いっきり命中させた。チョークとは思えない
ほどの音がした。その生徒は倒れた。しかし柔道の天才である道原
はきれいに受け身をとり、何事もなかったように席に着く。これも
日常茶飯事だ。
「今日は警護庁の方に来てもらった。きちんと話を聞くように」
そういうと、長身の中年男性が入ってきた。髪は茶髪だが、凛とし
た目をしていて、ベージュ色のトレンチコートが妙に似合っていて、
いかにも警護庁らしい身なりだった。
「えー、皆さんこんにちは。警護庁警護官少年係官を担当する、繁
谷行平だ。よろしく」
この学校では警護官が、月に一度講話をしにこの学園へやってくる。
講話が終わると、拍手で彼を見送った。
「ふう……ようやく休み時間かー」
「翔真はいつもそうなんだから」
「愛だってまじめすぎるんだよー」
「おいおい2人とも昼寝の邪魔するなって」
そうして、いつもの団欒モードに入ろうとしたその時、
ドオオオオォォン!
と、遠くから爆破音が聞こえてきた。
「おいなんだよこの音……」
周りの人も騒いでいる。間もなくして、放送が入ってくる。
『この学校は我々が占拠した。我々の要求はただ一つ。今この学校
に来ている大地揺影の身柄をこちらに渡せ!さもないとこの学校
を爆破する』
未来はその時まで、学校にテロリストがやってくるのは都市伝説
と思っていた。
「え、おおちようえいって誰?」
「おい未来、そんなことも知らないのか?大地って言ったらあの古
くからの警護庁のトップを務めてきたの家柄、『大地家』の第3
代当主だぞ!?」
「あー。テレビで見た気がする」
すると、稲生は騒ぐ教室を黙らせるような、鋭い声で、なおかつ
冷静にこう言った。
「みんな静かに!!先生は今から様子を見に行ってくるので、皆は
絶対に教室から出ないように」
そう言って稲生は走って教室を出て行った。
○ ○ ○
稲生はまず放送室に向かった。そこには他の先生もいたが、肝心
の犯人と思わしき人物はいなかった。彼がどこに行ったのかは見当
はつかない。
結局手分けして探すことになり、稲生は未来たちのクラスがある
三階を捜索することになったが、特に変わったことはない。すると、
後ろの方から女子の悲鳴が聞こえた。一年A組の方からだ。行ってみ
るか?どうする……。
○ ○ ○
「なんか隣のクラスから悲鳴が聞こえたんだけど」
「うん俺も聞こえてる」
1年B組の教室の中で、未来は素っ気なく返す。
「ちょっと覗いてみるねー」
愛が壁に顔をくっつける。
「見えない……」
どうやら壁が厚かったらしく、愛はしょんぼりした顔をする。しか
し、何が起きているのかを確かめたかった未来は、愛の顔を見つめ
て言った。
「愛、ちょっと様子見に行ってくれないか。28秒後に見つかるから
それまでに戻ってこいよ」
「え、嘘でしょ?それは男の仕事じゃないの」
そう言いつつ、愛は翔真は未来のことを信じて、しぶしぶ教室の扉
を開けた。恐る恐る隣のクラスの扉に目をくっつける。犯人の数は
……5人。想像より多いな、と愛は渋い顔をしつつ、教室を眺める。
主犯格の男が1人と、顔を隠しているけど銃を持っている人が4人。
みんなは教室の後ろ側に集められてる。と、一人が扉の方に近づい
てくる。慌てて教室に戻る。稲生先生が遠くの方にいたが、犯人に
見つかるのが怖かったため、急いで教室に入り、未来と教室のみん
なに状況を説明する。
「どうすればいいんだよ~」
「5人もいたのかよ!?多くね?」
クラスのみんなが口々に言う。
「でも何でA組なんだろう?」
鋭い観察眼を持っている端仲汀子が言う。確
かにもっともな意見だ。
○ ○ ○
山川が自身の能力で悲鳴の聞こえたクラスを透視している。自分
もうかうかしてられないな。稲生は放送を思い出す。
「爆弾……」
いつの間にか愛が消えていたので、自分はこのことをその階にいた
他の先生に伝え、別の階にいる先生にも伝えてもらった。
「B組の子には不安を募らせないようにこのことは伝えていないん
で、教員方だけに内密にお願いしますね。皆はまだ自分が能力者で
あるというだけで優越感に浸るようなガキです」
「はいはい。任せてくださいな」
さて、爆弾とやらはどこにあるんだ!?
○ ○ ○
何もする術なく教室で先生の帰りを待ち続けている未来たち。と
その時扉がガラッと開く。
「おいガキども動くなよ!」
これが愛の言ってた犯人グループの一人、ということを未来はすで
に察した。未来は彼の目を見る。未来の脳内に彼の映像が走馬灯の
ように流れた。このことを翔真に伝えようとすると、
――!?
未来はその男に拳銃を突きつけられていた。このほんの数秒の間で
何が起こったのか、その場にいた学生は誰も知る由がなかった。
「お前の能力が何だか知らないが、余計な真似はしないでもらおう」
未来は、能力の存在を知っていたことに驚いた。が、自分の能力が
何であるかをまだ気づかれてないことを利用すれば、まだやりよう
はあると思い、彼の目を見る。……しかし何も映らない。何でだ?
と未来は思い、もう一回まじまじと見つめるが、何も映らない。一
方で翔真は犯人の顔を見ようとするが、未来の体で邪魔されて見え
なくなっていた。未来の焦燥感ばかりが頭に入ってきて翔真は思わ
ずその場に倒れこんでしまった。男は腕時計をちらっと見ながら言
った。
「この学校はあと十分弱で爆発する。冥土の土産に俺の能力を教え
てやろう。俺の能力は数秒間姿を消す、いわゆるステルス能力だ。
俺は昔、警護隊の一員だったんだがな、あいにく才能がなくて、
もうやめよう、と思った時にこの能力が芽生えた。お前らみたい
に生まれた時から備わってるわけじゃないんだよ!俺はお前らがと
ても憎い。ここで俺らと一緒におさらばだぜ」
男はこれだけ言い終えると、未来に銃を突きつけたままカウントダ
ウンを始めた。
「さあ、あと6分で爆発だ!」
未来はある点に気づく。
「最初から大地揺影なんてどうでもよかったのか……!」
「警護庁は厄介だからな。早々に帰るように仕向けたのさ。おまけ
にこのタイミングで決行したのにも理由がある。警護庁の長が爆
弾と犯行予告にビビって逃げて、何百人もの生徒を犠牲にした、と
いうレッテルが張られるからな!」
男はまた時計を見やる。
「さあ、あと5分だ!」
何もかもお終いだ、そう思った矢先、
「誰がビビッて逃げるだと?」
しわがれた声で、でもしっかりと声にハリがある。ふさふさの白髪
を生やして、体形はやせ細ってはいたものの、警護庁長官というに
ふさわしい、風格のある老人であった。
そう、その声の主は、話に上がっていた、大地揺影本人であった
のだ。
「それ以上動くな!この生徒がどうなってもいいのか!?」
男はその人の登場に驚いたようだったが、なおも落ち着いた表情で
言った。
「ワシを脅すとは……キミも成長したようだが、その方向を間違え
たようだな」
大地は言葉を言い終わると男に一歩ずつ近づいていく。
「く……来るな!」
大地が男の目をじろりと睨み付けると、男は固まって動けなくな
ってしまった。力を無くした手から、拳銃がするりと落ちて、パタ
ンッと音を立てて床に転がった。
「な……なぜだ……」
男は生気を失った声でこぼす。そして大地はそのまま男を担ぎ上げ、
教室を出て行った。
「……やっぱりあの人すげえや」
周りにいた生徒はため息をついてしまうほど彼の能力者としての実
力に驚愕していた。
彼が出て行ってすぐ、1人先生がやってきた。
「犯人グループは全員取り押さえました。ただ、まだ安全が確認さ
れたわけではないので、今日は集団で下校してください」
クラス中の皆が歓喜の声を上げる。
「や……やったあ!」
「一時はどうなるかと思ったぜ!」
その帰り道。未来、愛、翔真は横1列に並んで歩いていた。
「俺ら、何もできなかったな」
「そんなことはないよ。未来と愛は隣のクラスに偵察に行ったじゃ
ない。俺なんて肝心な時に何もできなかった。能力なんて所詮は
生きる上で重要じゃないんだよ」
「まあまあ、だれも死んだりしなかったんだし、いまはとりあえず
喜ばないと、二人とも」
少し考えて未来は口を開く。
「……うん、そうだな!」
3人は自分たちが無事という状況を実感し、笑いあった。
これは、3人の異能力者の成長物語のほんの一部にすぎない。