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 次に訪れたのはイルトだった。

 “地の申し子”が守る町。良質の土が取れ、陶器作りが盛んだという。近年は宝石の原石も取れると聞いていた。

 が、これはなんだ。

 スィンとて王都とノルシェしか歩いたことのない身だ。王都は人々の集まる活気溢れる都だし、国境線を有するノルシェだって張り詰めてはいるが、力強さのある町だった。

 しかしイルトのこの有り様は異様だった。

 地の土地だというのに大地は乾いている。通りも寂れ、人通りは少ない。賑やかさなどどこにもなかった。噂に聞いていた町は、どこにいってしまったのだろうか。

 通りの人形屋から人が出てきた。

「すみません!」

 スィンは声を掛けた。その人は面倒臭そうに視線を向ける。

「あの……ここはイルトで間違いないんですよね? イルトは商業が盛んな町だと聞いていました。これは……どういうことですか?」

 その人は大きくため息をついた。

「どうもこうもねぇよ。“地の申し子”様が連れていかれてからはこの有り様さ」

 スィンは嫌な予感がした。

「どういうことですか……?」

「王様が王都に呼んだんだよ。どういうつもりなんだろうな。建国以来、王宮と神殿は不介入できたはずなのに……。“地の申し子”がいない時代もあるからそんなに変わんないはずだけど、やっぱりいるのといないのとでは士気が違う。ここにいないってだけでこのザマさ」

 男は通りを顎でしゃくった。話は終わったとばかりに足早に立ち去っていく。

 スィンは言葉を失った。

 あの王が。いったい何をしようとしているのか。“神の申し子”を手の内にしようだなんて、許されることではない。

 四方に四神がいて、このワルセングを守っている。それは建国から変わらないものであるはずだった。

 そのバランスを崩さんとする王の所業を、見過ごすことなどできなかった。

 何かが大きく動き出そうな気がした。


 それでもスィンは、しばらくイルトに滞在することにした。

 心の拠り所がなくても営みは続けなければならない。そうしてイルトは続いているように見えた。

 “神の申し子”がいない時代だってある。だがしかしここイルトに至っては、数十年、“地の申し子”がいる時代が続いていた。その反動は大きい。人々の顔には明るさがなかった。

 スィンは通りを歩いていた。

 やはり造詣人形の町というだけあって、人形屋が多い。だがそのどれも、開いているかどうか分からない有り様だった。

「んじゃーちょっと行ってくるわ」

 そんな声が後ろから響いた。

 振り返ると、一軒の人形屋から男が出てくるところだった。それを見ていたスィンと目が合う。

「こ、こんにちは」

 スィンは思わず離し掛けていた。

「ちは。旅の人?」

 銀色の髪を揺らしてその人は尋ねる。スィンは深く頷いた。

「見ても楽しくないだろ。こんな町じゃ」

 内容とは裏腹に、男の声は明るい。スィンは「いえ……」と口ごもった。

「いーんだ。町が錆びれてるのはほんとの話だし。あんま見るとこないかもしれないけど、せっかく来たんならゆっくりしてってくれよ」

 男は人懐っこい顔で笑った。スィンも微笑みを返す。

「ときに」

 男はずいっと近付いてきた。

「造詣人形はもう見たかい?」

 そう言って顔を近づけてくる男に気圧されつつ、スィンは首を振った。

 男は少し身を離すと、スィンの隣を過ぎ去った。聞いておいて立ち去ろうとする男に訳が分からずスィンは振り返った。

 男はもう大分離れたところにいる。

「俺は造詣人形だよ! せいぜいイルトを楽しんでってくれ!」

 一度振り返ってそう叫ぶと、今度こそ男は去っていった。

 なんだったんだ、いったい……。

 結局よく分からないままだったが、それが初めて見た造詣人形だった。

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