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 祭典の日がやってきた。普段は礼拝の人たちで賑わっている神殿も、この日ばかりは厳かな雰囲気に包まれる。

 祭壇では司祭の挨拶が始まっていた。

「緊張してきた……」

「奇遇だな。俺もだ、レスト」

 二人は祭壇の陰で強張った顔をしていた。

「準備はし尽くしただろう? どんと構えてろ」

「師匠……」

 いつの間にか背後に来ていた師匠が二人の肩を叩いた。ボロボロの二人とは対照的に、その表情は晴れ晴れとしていた。

「それにしても……“地の申し子”様は随分普段と印象が違う御方でしたね」

 レストは祭典の準備に勤しむ“地の申し子”を思い出していた。

 普段、参拝客に優しく微笑む彼女は、神官たちしかいない間では違って見えた。

 目には力強さが宿り、神官たちにあれこれ指示を飛ばしていた。その姿はイルトの強かな女性のそれである。

 “地の申し子”とは言っても一人の女性なんだよなぁ、とぼんやり考えていた。イルトの女性は、強い。

「そりゃあ彼女だって普通の人間だよ。ちょっと不思議な力はあるけどね。私とお茶するときだって実に面白い話をしてくださる」

「えっ師匠、“地の申し子”様と茶飲み仲間なんですか?」

「そうだが?」

 イメージと違う姿にレストとフーマはぽかんとした。彼女と相見える前だったら、違和感がなかったかもしれない。焦げ茶の緩やかに波打つ髪を持つ“地の申し子”は、見かけだけなら優雅にお茶をするところも絵になる。しかし普通に喋るところを見てしまってはその絵も崩れ去った。ましてやこの師匠とである。

 確かに師匠は神殿付きの造詣人形師で神殿に出入りすることも多いが、あの“地の申し子”様と並んでお茶をするところは想像できなかった。

「さ、そろそろ時間だ。いくぞ」

「はい!」

 二人は造詣人形の手を取った。


 祭典用とあって、レストとフーマが作ったのは舞踏造詣人形だった。踊ることに特化した造詣人形だ。

 深い青を基調とした煌びやかな衣装で、双子ということだから対になるデザインだった。青は“地の申し子”の額の宝玉の色である。

「そういやあれに名前は付けたのか?」

 祭壇の中央に立った二体の造詣人形に視線を向けたまま、師匠は言った。集まった人々から拍手が起こる。

「あぁ、俺のが“ロッド”でレストのが“ドール”です」

「ほう。由来は?」

「古語の“オールディア”をもじって」

 レストはにっこり笑った。

「今の時代って新しい技術をどんどん取り入れようとしてますよね。でも古いものだって忘れちゃいけない。それを踏まえた上で新しいものを取り入れるべきだ、って。そう思うから“古きもの”という意味を与えました」

 師匠は黙って聞いていた。

 二体の造詣人形はイルトの伝統音楽に合わせて舞っていた。その舞は古くから伝わる舞踏に現代的な踊りを混ぜ合わせたものだった。その名に相応しいものだろう。

 完成してから一週間、この日のために準備したものだ。

「ふぅん……。なかなかいいんじゃないか?」

 師匠は顎に手を当てて呟いた。その言葉で二人の顔はぱぁっと輝いた。師匠が褒めてくれるのは、珍しい。

 舞は大成功だった。


   *


 祭典から一ヶ月が経った。相変わらず、師匠の工房で修行を積むレストとフーマである。

 いや、変わったことがひとつある。二人が神殿に招かれるようになったのだ。

「はぁ……」

「おいレスト、辛気臭いため息吐くなよ」

 レストは暗い顔でフーマを見た。明らかに疲れが溜まっている。

「そう言うなら代わってくれよ……」

「無理。ミスカ様はお前をご所望じゃん」

 “地の申し子”ミスカは、先の祭典でレストたちの人形の舞をいたく気に入ってしまったらしい。神殿お抱え人形師である師匠に言って週に一度、二人は神殿に行くことになった。

 そしてミスカはレストを特に気に入ってしまったという。

「ミスカ様は冗談が過ぎるんだよ!」

「見てる分には面白いけどな」

「見てないで助けろ!」

 そう言いながらも二人は神殿に向かっていた。フーマは呆れた顔を浮かべる。

「そんなに行きたくないならはっきり本人に言えばいいじゃないか」

「いや、別に行きたくない訳じゃないんだよ。なんていうか……。ミスカ様といると調子が狂うっていうか……」

 もしかして、とフーマは思った。嫌い嫌いも好きのうちというが、顕著すぎる。

「ま、そんな気負わずにいけよ!」

 フーマは背中を叩いた。本人が気付いてないうちはこっちから言う必要もないだろう。気のせいということもあるかもしれないし。


「よく来たな!」

 レストはさっそく一歩引いた。ミスカは構わずずんずん進んでいく。そしてレストの肩をばんばん叩いた。

「よい茶葉を貰ったんだ。皆で飲むぞ」

「あ、ありがとうございますー」

 フーマはさらりとお礼を言うと、ミスカとレストの後を着いて来賓室へと足を向けた。

「ミスカ様……近いです……」

「む? 歩きにくかったか? すまん」

 ミスカはレストの肩に添えていた手を下ろした。フーマはちらりとそちらに視線をやった。

 明らかにミスカもレストのことを悪くは思っていないだろう。でもお互い自分の気持ちには気付いてなさそうだ。気付いていないうちは口を出すまい。

 さて、どうなることやら。

 そんなことを思いながらフーマは二人の後ろを歩いた。

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