#37
「何だと?仲間が命懸けで封印したんじゃなかったのか?」
黒田が元勇者だと言うなら、祠を破壊してパイレーツセブンの封印を解いたというのは矛盾している。むしろ、封印を守ろうとするはずだ。
「だからこそだ。パイレーツセブンには、二重に封印が施されていた。勇者達が力を封じてから、神官達が海底へ沈めた。どちらの封印も、もう限界が近かったんだよ。その証拠に、勇者達の封印はまだ活きているのに、パイレーツセブンは力が使えただろう?もし、勇者達の封印が破れれば、勇者達の魂はパイレーツセブンの呪いに取り込まれてしまう。そうなれば、彼らがパイレーツセブンとして暴れ回る事になるからね。だから、その前に祠を壊して神官達の封印を解いたんだよ。新しい勇者が召喚されたって聞いたからね」
黒田の話は一応、筋は通っているが、信用していいか微妙なところだ。
「俺達に、パイレーツセブンを始末させるつもりでやったって事か?」
「可能ならそうしてもらいたい。出来ないなら、二十五年前と同じ様に封印の人柱になってもらう」
黒田が人差し指で眼鏡を直し、こちらを一瞥した。
「何言ってんだ?あんた以外の全員で封印したんだろ?俺達は四人しか居ないんだから、無理無理」
明智が肩を竦めるジェスチャーをしながら、笑う。かなり挑発的に見える態度だ。
「その辺は心配無いよ。私も勇者だから、これで五人。封印のために人柱になったのは八人だから、あと三人調達すればいいのだろう?たしか、北の神殿に召喚された勇者の生き残りは二人だったね」
黒田は指折り数えると、明智に向かって微笑む。逆に、明智は真剣な目付きになった。スペクトラに手をかける。
「そんな怖い顔しないでくれよ。それから、勇者並みの力を持った者を一人。合わせて三人、君達が呼んでくれたんだろ?」
「俺達が?俺達には、勇者を召喚する能力なんて無いぞ!」
余裕のある表情の黒田に対し、明智が怒鳴り返した。
黒田の言うもう一人は、アリスの事だろうか?アリスは、前回の旅で俺達の仲間になったヴァンパイアハーフだ。勇者並みの力という条件は満たしている。ヴァンパイアという事で迫害されないために、今は、俺達の世界で暮らしているが。
「問題発生だ。超でけぇ問題がな……」
「何だ?今すぐ救急車で突っ込むくらいのか?」
溜め息を吐きながら言った俺の言葉に、元ネタが分かっている伊達が訊ねてくる。冗談には乗っているが、その顔は真剣だ。
「向こうが週末になったら、アリス達が来る予定になってた」
再びこの世界に来るにあたって、学生達は週末に合流するという話になっていた。そして、アリスも北の勇者も三人とも学生だ。
「そういえば、そんな話もあったね……」
伊達が腕を組んで考え込む。
「じゃあ、原田さん達、こっちに来ちゃうの?マズくない?」
真田が焦って、上擦った声を出した。
「だから言ったろ?超でけぇ問題だって」
タイミング的には最悪だ。黒田は全てを知っていて仕組んだんだろうか?しかし、来てしまうものは仕方がない。焦っても状況は良くならないので、とりあえずビリガーを一本取り出して火を着ける。
「君、この状況でタバコに火を着けるなんて、随分と余裕だね」
黒田が、俺を見てニヤッと笑った。マズイ状況へ追いやった要因の一つの癖に、腹が立つ。
「北の勇者が来る事は今更変えられないだろうし、今できる事はあなたを排除するか、パイレーツセブンを始末するかしかない。でも、それなら彼らが来てからの方が人数的には有利だ。だから、とりあえずタバコを吸ってるんだよ」
まずは、パイレーツセブンを始末する方向で考えて、黒田を排除するのは人柱にされそうになってからでも遅くはない。それに、黒田が元勇者だと言うなら、出来れば戦いたくはない。それは最後の選択肢だ。




