#30
「これでも喰らえ!」
目の前の空中に浮かんでいる枠の中に並んだ文字列から、炎の魔法を選んで左手の人差し指でタッチする。右の掌の前に炎の塊が現れて、僕らへ近付いて来ていた骸骨の集団へと飛んでいく。
「よし!」
炎の魔法を喰らった骸骨達は、跡形も無く吹き飛んだ。
僕の名前は、黒田彰人。先週までは普通の中学三年生だった。今は異世界へ召喚されて、勇者をやっている。勇者と言っても、鎧を着てマントを羽織ってたりはしていない。うちの制服の黒い学ランを着ている。武器も特に持っていない。
さっきの空中に浮かぶ枠は、ゲームでよくあるウィンドウ機能。それを使うと簡単に魔法や必殺技が使える。ウィンドウ機能と身体能力強化は、僕の他にも居る勇者全員が授かった力だけど、炎の魔法は、僕が望んだ、僕だけの力だ。
「彰人くん、やったね!」
そう言って、僕の肩を叩いたのは、藤堂瑠美ちゃん。ポニーテールの似合う、活発で、かわいい女の子だ。着ている紺のブレザーは、うちの学校の女子制服。僕と同じく魔法使いタイプで、光の魔法を使う。
瑠美ちゃんとは三年間ずっと同じクラスで、僕は一年生の頃から瑠美ちゃんに片想いだった。ここに召喚される前日、勇気を出してデートに誘った。召喚されたのはデートの最中だったはず。『はず』っていうのは、召喚される直前の記憶が無いから。でも、デートしていたのは間違いないし、デートの最後に告白するつもりだった。こうなっては仕方ないから、勇者の使命を果たしたら告白しようと思っている。
「黒田先輩、スゴいですね!」
瑠美ちゃんに続いて声をかけてきたのは、僕と同じ黒い学ランの制服を着ている藤堂玲雄くん。イケメンで成績優秀、スポーツ万能な瑠美ちゃんの弟だ。瑠美ちゃんに似て活発で素直な良い子で、まだ一年生なのに僕よりも背が高い。瑠美ちゃんの話では、かなり女の子にモテるらしい。彼も魔法使いで、雷の魔法で戦う。
「やるな、黒田君」
この人は、毛利三郎さん。僕らのパーティで最年長の二十歳。肩まである長髪に切れ長の瞳のクールなイケメンで、いつもタバコを咥えている。子供ばかりのパーティーの実質的なリーダーだ。面倒見も良い。そして、魔法使いばかりの僕らのパーティーの唯一の前衛でもある。居合いと剣術をやっているそうで、刀を使って戦う。かなり強くて、今まで遭遇した敵の半分は、毛利さんが斬り捨てた。
このパーティーの男性陣は、僕以外はイケメンばかりだけど、毛利さんは彼女が居るし、玲雄くんは瑠美ちゃんの弟なので、瑠美ちゃんを取られる心配は無い。……と思いたい。
「ありがとうございます」
今、僕達は、パイレーツセブンという魔物の船に、乗り込んでいる。僕らは、パイレーツセブンを倒すために召喚されたからだ。幽霊船みたいな船内には、パイレーツセブンの手下のナイフや剣を持った骸骨のお化けがウヨウヨしていて、そいつらを倒しながら進んでいるところだ。
僕らの他にも勇者は三パーティー居て、全ての勇者が四人編成なので、全部で十六人居る。この国に四つある神殿で、それぞれ召喚されたらしい。僕らは、東にある風の神殿に召喚された。
「それにしても、こうも敵がウジャウジャ出て来るんじゃ、なかなか先へ進めないな……」
毛利さんがタバコを床に投げ捨てて、溜め息を吐いている。
「そうですね。パイレーツセブンと戦う前に、疲れちゃいますよね」
玲雄くんが、毛利さんに同意した。船内に入って、もう一時間くらいは経つ。ここまでで、すでに僕らは数十体の骸骨を倒していた。




