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いにしえ日記  作者: 歩野
6/7

その6

四月二十日

 友達を誘ってドライブ。ついでに市内で飲んで来た。

 スナックでテーブルについた女が、俺のことを知っていると言う。

 俺は彼女の記憶がまったくないのだが、彼女は俺の事をよく知っていた。

 いったい誰だろうとなかなか思い出せなかったが、色々探りをいれているうちにようやく思い出した。

『過ぎ去りし日』の『セカンド・ラヴ』の彼女、XXXの友達だった。

 七年前に一度会ったきりだったのですっかり忘れていたが、彼女のほうはXXXから俺の話を色々聞かされていたので多くの事を知っていた。

 その当時、XXXと二人で彼女のところに遊びに行った事を思い出してしみじみした。

 彼女も、俺とXXXの結末をドラマみたいだったね、と言い、しんみりする。

 割り切れている筈なのに、美しい思い出にするにはもう少し時間がかかるようだ。


 俺の気持ちとは別に関係ないんだけど、「別れたあの人への伝言」という本が近くにあるので、いくつか抜粋するかな。


 いま あなたは だれかの横で 微笑っていますか? 


 願っても願っても 祈っても祈っても 奇跡は起こらない 


 もしかしたらと何度も思った。 わたしたちに もしもはなかった


 あなたに会えてよかったなんて いつになったら思えるのだろう 


 四月になると思い出す あなたの誕生日。でも 主人と結婚して 九年が過ぎました 



四月二十一日

 将来のヴィジョンを持ち合わせていない。

 三十までに死ぬつもりだった。

 本気でそう思っていた。

 だから将来の事なんか何も考えていなかった。

 でも、今こうやって生きている。

 そろそろ真剣に考えようか。

 年老いていくまで孤独を貫き通す自信もない。

 もし一緒に生きていける人に出会えたら、養っていかなければならないし。



四月二十四日

 若かりし頃は、人生が終わった時に、無難に人生を過ごせたっていうよりも、色々あって大変だったけど頑張った、という人生にしようと思っていた。

 実際そういう生き方をしてきたのだけど、本当に色んな事があったのと、エネルギーが失せた事で疲れ果てていた。

 次第に感情を殺す事で保身するようになっていく。

 当然、毎日が退屈になっていく。

 でも自分が傷つく事もない。

 恋は遠い日の花火になってしまった。

 痴呆老人のように。

 それを望んだのだけど、もういいかな。

 充電もたっぷりした事だし。



五月三日

 奇麗事は置いといて、女について語る。

 男が手放したくないと感じる女、それはセックスのいい女。先天的なものに限らず、男を悦ばせるのが好きな女は多くの男が重宝する。

 男が身近に置いておきたい女、それは料理のうまい女。

 本能の欲求を満たす女はありがたがられるようだ。

 一般論です。

 個人的には、性格ありき、だけどね。


   ――


 この女いいな、と感じる女を、他の男が「ブスだよ、あの女」という事が多い。

 でも俺から見ると、間違いなくタイプなのだ。本当にいい女と感じる。

 逆にみんなが綺麗だと思う女に、何も感じない事が多い。

 意識せずとも、自分に合うであろう女を脳が識別しているのだろう。

 もとの顔の造りが悪くても、性格が良ければ表情はよくなる。その表情のいい女を、俺の脳は自然にとらえる。

 時には、道ですれ違っただけで幸せな気持ちにさせて貰える。



五月四日

 むかし聴いていたボブ・マーリーのCDのタイトルがどうしても思い出せない。

 解説書も日本語訳もついていない安物のCDだったけど、今でも心に残っている。

 Hungryを連呼する歌。Live in a parkというフレーズが印象的な歌。

 残念ながらこの島のCD屋さんは品揃えが豊富じゃない。ボブ・マーリーのCDは五枚しかなかった。そのうちの三枚を買ったのだけど、あのアルバムをもう一度聴いてみたい。若い頃、電気、ガス、電話を止められた極貧生活を思い出すから。当時は大変だったけど、今にしてみればいい思い出になっている。そのCDは人にくれたから、今は手元にない。実際のところ、誰にくれたのかすら覚えていない。

 これまで、軽く五十枚以上のCDを人にくれてしまった。

 いろんな人に。

 アホです。


   ――


 男の経済力は女の美貌に匹敵する、と言われる。

 それは頷ける。

 女は結婚した相手で、その後の人生がまったく違うものになってしまう。カネがものをいう世界で、収入を男に頼る女が経済力に惹かれるのは無理もない。

 こんな事を書くのは俺が金持ちだからではない。正反対、俺は失格だよ。素直に納得できる事を書いているだけ。

 女が恋愛に必死になるのも、結婚する相手で人生が変わるという事を知っているからなのだろうか。

 つまらぬ女性誌を見る度に、そう感じてしまう。勿論、人それぞれ違うだろうけども。


   ――


 いつかの日記で、本当に男女平等の時代がきたら、男が女にかなうのは腕力だけだと書いたが、果たして女はそれを望むだろうか。

 答えはノーだろう。大多数の女性が現状維持を望むと思う。

 社会で男に甘える事なく、仕事も恋愛も男と対等にやっていくのがいかに大変な事か、よく解っている筈だ。

 そんな事をするぐらいなら、今時点でたまに男女不平等に腹を立てる事があっても、それさえ我慢すれば男よりも楽な生き方ができるって事を知っているはずだ。

 だから都合のいい時だけ男女平等を口にする女を俺は嫌う。



五月五日

 時間つぶしでパチンコを打ってきた。

 といっても本職のパチンコじゃなくてスロットの方なんだけど。

 パチンコは全滅だった。勝負できる台が一台もない(釘が悪すぎ)

 それで遊びでスロットを打ったら、プラス三万五千円になった。自分のひきの強さに感謝。


 夜、飲みに行ったんだけど、カウンターでマスターの仕事を見ていたら、池袋でパブの従業員をしていた頃を思い出して、なんだかとても懐かしかった。

 ついでに二十二、三の頃に、この島の飲み屋街で無茶した事を思い出す。

 その日は正月休みで、しかも成人式。この島の成人式はたしか一月五日だったと思う。俺は自分の成人式に参加しなかったから、よくわからないけど。(儀式が嫌いだからね)

 先に言い訳をする。これをやった首謀者は俺じゃない。しかも酒が入っていた。若気の至り。

 まあいいや。

 その日の飲み屋街は、いつにも増しての人だかり。そこを何度も車で流しただけなんだけど、ただ、カーステレオをフルボリュームにしてエロテープを流していた。前を歩いている人が振り返るぐらいの音量で。加えて、後ろの奴がハコ乗りしながら、アーケード街からかっぱらってきた『大売出し』の旗を暴走族のようにかかげていた。もう一人がトイレットペーパーを垂れ流しながら「踏むなよ」と、大声を出していた。さらに……

 ダメだ。これ以上は言えない。(暴力沙汰じゃないし、女の人にちょっかいを出したわけでもないよ)

 はい、とても反省しています。勿論あんなまねは二度といたしません。だからみなさん、許してください。あんな無茶をしたお陰で、今は立派に更正しています。

 しかしあの時、誰も文句を言わなかったし、注意もしなかったな。異常にハイテンションだったから、関わりたくなかったのかな。

 仮に注意されていたら、俺はちゃんと謝っていたよ。そういう所はとても素直だからね。

 相手が子供だろうがなんだろうが、自分が悪いと思ったら素直に謝るよ。

 そんなわけで、今日は言い訳と反省の日記でした。



五月八日

 連休の夜更かしを改善すべく七時前に起床。

 そう、今日から新天地を求めて職探しなのだ。

 俺は多くを求めていない。給料なんてペエペエの安月給でいい。まともな人たちと仕事がしたいだけだ。俺に無理を求めない社長を探す。

 しかしこの貧しい島では、その程度の条件でも職を探すのが大変なのだ。先週見た職安の求人は、営業と肉体労働のみ。

 軽い肉体労働ならやれるけど、土木作業なんてもう体がついていかないよ。ここ数年ずっとデスクワークで過ごしてきたから、体は鈍りきっている。

 それでも何か探さなくては、と思い、職安へ向かう。向かう。

 向かったつもりが何故かパチンコ屋の中。

 下手に勝つからこういう事になるんだよなあ。困ったもんだ。昨日も別の店に行って、四万五千円のプラス。

 そして今日は……。また勝ってしまった。しかも今日も四万円勝ち。

 嘘みたいだろ。でも本当なんだよ。しかも本職のパチンコじゃなくてスロットで。

 正直に言って、ひきの強さと波を読む目だけで勝っています。当然こういうのは長く続きません。ちゃんとした攻略法と戦略をたてないと、いずれ勝ち分すべて呑まれてしまいます。パチンコでの経験で、よくわきまえています。

 今更パチプロになる気もない。明日こそはちゃんと職安に行こう。



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